背後から近づく気配
「誕生日おめでとう」
「………ああ、ありがとう」
背後からかけられる言葉
いつの事からか“この日”の始まりはいつも決まっている
どういった手品を使っているのか、この日ばかりは、彼女に会うまでは他の者と顔を合わせない
この地にたどりついてから幾年
毎年毎年、彼女の姿を目にし、彼女の言葉を耳にする
初めの数年は、あからさまに不機嫌になる自分に対して、なるべく関わりたくはないと思っていたのだろう
だが、それももはや昔のこと
過去を忘れた訳ではない
割り切れた訳ではない
あの感情が無くなった訳ではない
ないのだが………
「嬉しいわ」
楽しげに笑う彼女へと、疑問の目を向ける
「今年は去年よりも不機嫌じゃなくなったもの」
「………そうか」
返す言葉が見つかぬ我へ、彼女が笑みを深くする
「来年は、少し楽しそうな顔をさせて見せるわ」
そうして、差し出される手
「それは、楽しみにしておこう」
来年までの1年
その間に何が起きるのか、己の心がどのように変化するのか
「ええ、だから覚悟しておいて頂戴」
自信ありげに、そして楽しげに彼女が笑う
手を引くように、先に立って歩き出すのは彼女
向かう先は大広間
嫌な記憶に、僅かに手に力でも入ったのだろう
我へと穏やかな視線が向けられる
「さあ、行きましょう?」
柔らかな誘いの声に苦笑し、足を進める
「それで、今年は何が待っている?」
「それは、見てからのお楽しみよ」
「そうか」
幾度となく繰り返された会話
同じことを繰り返して
異なる経験を積んで
繰り返しであって、繰り返しではない世界
これもまた悪くはない
思いは声に乗せられぬまま
そっと胸の内にしまい込まれた
 


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