お客さん


 
「まいどおおきに、またきてや」
日暮れ間近の庭園で、彼はたった今最後の客を見送った
今では、他の人の為にも商売はしているが、彼の店は基本的に女王候補の為に開いている
「んー、今日もこれで終いやな」
時計の針が女王候補達の活動時間の終了を指し示している
彼は、手際良く片づけはじめる
店の開いている時間は、女王候補が自由に外を出歩ける時間のみ
別に決められている訳ではないがいつの間にか、そう決めた
手際良く荷物がまとめられる
「わすれもんはあれへんな?」
忘れ物が無いのを確認し、彼は荷物を持ちあげた
「おつかれさん、また一週間後な」
屋台へ陽気に挨拶をし、勢い良く振返り足を踏み出した
いつもなら通りがかりの人達に挨拶をしながら歩きさる足が止まった
「あの………」
振り向いた先には、小さな少女が真剣な面持ちで立っていた
「ん?どないしたんや?」
「………お店……」
小さな声と、うつむいた顔、そしてきつくき握り締められた手
「あ、お客さんやったんか」
うつむいた顔が微かに頷く
「んー、あんまもの残ってへんけど、そんでもええかな?」
泣き出しそうな少女の様子に、彼は苦笑して荷物を広げた
少女の目の前に露店が広がる
泣きそうに歪められていた顔が、弾かれたように上がる
そして、食い入るように目の前に並べられる品物を見つめている
「どんなもんがええかな?」
売れ残った商品の中には少女が好みそうな品物はなかなか見当たらない
………小さい子向けの商品ってのは、用意してへんしな……
今まで、子供が買い物に来た事が無かった為、大人向けの物がその大半を占めている
「………お別れなの……」
消え入るような小さな声が不意に告げた
ん?お別れ??
「えーと、お友達かなんかか?」
「……外に行くんだって…………もう、会えないって……」
外って………
「聖地から引っ越すんか……」
二度と会えないと決まった訳ではないが、会えなくなる確率の方がきっと高い
「んー、記念に残るようなものがええよなぁ」
記念に持っていられる
「相手は女の子かな?」
思い付いた品物は、女王候補の為に仕入れた品物
彼の言葉に、少女は勢い良く頷いた
でも、女王候補以外に売って悪いってわけでもないし
彼は品物を2つ少女に差し出した

数週間後
彼は、庭園で遊ぶ少女の姿を見た
少女のかぶった帽子には、あの日2つ渡した幸せの羽根が1つ風に揺れていた
 

END
 
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