遠い記憶


 
再び出会った守護聖や教官、協力者……いや、旅の仲間……共に戦った同士というべきだろうか?
そんな彼等との再会
危機感を持ちながらも穏やかに時が流れていた

いつもの時間、いつもの様に合わされる剣の響き
休日毎に繰り返される光景
手合わせをする2人の様子を時折アドバイスを与えながら、ヴィクトールは見守っていた
鋼がうち合わされる響き、そして綺麗な弧を描きはじき飛ばされる剣の軌跡
悔しげな顔をする少年の姿に、古い記憶がなぜか揺さぶられる気がしていた
「……ヴィクトールさんは、軍に入ってから剣の使い方を覚えたんですよね?」
「ええ、俺の場合はそうです」
休憩時間の他愛のない雑談
「オスカー様は……」
「家は軍人の家系だからな、」
「『子供の頃からやっていた』」
オスカーの言葉に重なり聞こえた声
ヴィクトールの脳裏に、過去の光景が描き出される
陽光を反射する剣のきらめき
その剣を携えた1人の青年の姿、その顔に浮かぶ不思議な表情
「そろそろ休憩も終わりだ」
思考に沈んでいたヴィクトールの耳に不意にオスカーの声が響いた
現実へと引き戻される意識、立ち上がる2人の姿に過去の情景がかき消された

悔しげな表情をするランディの様子
何度目かの打ち込み、何度も繰り返される光景に、ヴィクトールはあることに気づいた
「よろしいですか、ランディ様」
タイミングを見計らい2人の間にわりいる
「どうも、嫌な癖がついているようなのですが……」
特定の攻撃をする際、あるタイミングで生じる癖、ソレを見覚えられている限りランディに勝ち目は無い
「え、本当ですか?」
「おいおい、そういう事は秘密にして貰いたかったんだかな」
二つの重なった声に、ヴィクトールは小さなため息をついた
「こういった良くない癖は早期になおしておかないと、」
「『直すことができなくなる』ものです」
再び耳の奥で声が聞こえる
そして浮かび上がるのは、呆れたようでもあり馬鹿にしたようであり、なによりも強い怒りを湛えた瞳
『命がけで戦う相手でも無い限り、くだらないプライドを優先させるな』
耳の奥底でこだまする声
「命の瀬戸際になればなるほど、身に付いた癖が強くでるものです」
いつか聞いた言葉が、口を流れ出る
『それとも、お前が一生涯を掛けてそいつを守るとでも言うのか?』
冷たく鋭い視線、自分に向けられた訳でも無いそれに、背筋を冷たい汗が流れ落ち、恐怖心を覚えた
次々と脳裏にあふれ出る光景、アレは休日暇をもてあました仲間達と武術訓練と称した模擬戦を行っていた時だ
思い出される光景、感情、感覚、生まれて初めて感じた冷たい殺気、あれは軍に入隊してようやく数ヶ月たったばかりの頃の出来事
鮮やかによみがえる過去の情景に意識を奪われる
「ヴィクトールさん!」
至近距離からの声と、強く腕を捕まれる感覚を覚える
我に返ったヴィクトールの眼に心配そうに顔を覗き込むランディの姿が見えた
「大丈夫か?」
ランディの後ろに眉をひそめたオスカーの姿も見える
「ええ、少し昔の事を思い出しただけですから……」
まだ若く、大切な事は何も知らなかった頃の遠い情景
「あ、そうなんですか」
安心したというような表情と明るい笑い声
重ねられた月日の間にいつの間にか薄れていた記憶
決して忘れる事は無いだろうという記憶が長い年月の間に積み重ねられていた
「是非今度その内容を聞いてみたいものだな」
ヴィクトールの様子をじっと見ていたオスカーが口調だけは砕けた様子で話し掛ける
「機会があったらお聞かせしますよ」
探るように向けられた鋭い視線を受け、笑みを浮かべて気軽に承諾した

深く奥底に潜り込んでいた記憶
ふとしたきっかけで思い出された記憶は、次々と関連する出来事を思い出させる
過去と久しぶりに向き直る
過ぎ去った時間、忘れ去っていた数々の出来事
その夜ヴィクトールは、懐かしい記憶の中を漂い歩いた
 

END
 
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