祈りにも似た願い


 
ここにあるのは感謝の気持ち
あなたが産まれてきたことに
あなたがここに存在することに
今日、この日はあなたの為に、願いと祈りを込めて…………

きらきらと輝く光の粒が見える
気持ち良い位に晴れ上がった青空
わくわくした気持ちと、ほんの少し感じる不安な気持ちは
きっと、今日が特別な日だから
「がんばろう」
窓を大きく開け放ち、肌寒い朝の空気を大きく吸い込み
気合いと共に、言葉を吐きだした

あなたに楽しんで欲しい
あなたと楽しみたい
いやな思いはさせたくないから
心から喜ぶ事ができるように
あなたの好み、嫌いな事、いやな出来事すべてを考慮に入れて
私が、私達が考えた精一杯の祝福
今度は、楽しい思い出で満たされるように
いやな記憶を、思い出を消していければ良いね

そんなに広くない部屋は、装飾も何もない真っ白の壁に覆われていた
「殺風景な部屋だねぇ」
まだ何も置かれていない部屋は、確かにそんな風に感じる
「そう思いますよね、せっかくなんだから、もう少しどうにかしたらって言ったんですけど」
そんな事言ったって……
レイチェルとオリヴィエ様が進めてくれたのって、豪華と言うか、派手なのばかりだったんだもの
そういうのが嫌いなのよ
ううん、嫌いと言うよりも嫌悪してる
だから、私が選んだのは、何の装飾もないシンプルな部屋
壁の色くらいは、白でなくても良いかなって思ったけど
「これからですよ、これから」
これから少し飾り付けをするんだから、きっとこれ位でちょうど良いはず
「そうね、これだけ何もないと腕の見せ所って気がするねぇ」
「えっと………」
そんなに張り切ってもらわなくても良いんだけど
むしろ、張り切ってもらうと困るんだけど
「心配しなくっても大丈夫だよ、私だって、あいつの好みくらい知ってるからね」
言葉に詰まった私の顔をのぞき込んで、オリヴィエ様は陽気な笑い声をあげた

準備された材料はどれも見たことのあるモノばかり
私は一つ一つ丁寧に野菜の皮を剥きながら安堵のため息をつく
豪華な料理が嫌いな人で助かったかも
きらびやかで難しい料理の名前を挙げられても私には作る事はできない
でも、こういった家庭料理なら、作り方を知っているし、作る事ができる
別に私の事を考えてこういうモノな訳ではないけど
ただ、単に好きな食べ物が家庭料理っていうだけなんだけど
こういうのは、少しうれしい
「そこ、幸せに浸ってないでよ」
容赦のない、レイチェルの声
「浸ってなんかいないわ」
あわてて手を動かす私の耳に聞こえる笑い声
そんな笑わなくても………
恥ずかしさで、たぶん顔が真っ赤になってる
「でも、手早くやらないと間に合わなくなるのは絶対だよ」
手際よく料理を進めていたレイチェルが
「ただでさえ時間がかかるんだから」
私の手元から、タマネギを抱えていった

一見どこにでもある、シンプルな飾り付け
「これならどうだい?」
得意そうに見つめる皆様方の姿
控えめな飾り付けと、全体を覆う暖かな雰囲気
「はいっ、これならきっと気に入ります!」
ふつうの家庭の暖かい雰囲気
きっと大丈夫
きっと気に入ってくれる
「ほら、まだ今日一番の大仕事が残ってるんだから」
トン、と軽く背中を押される
「がんばってねっ」
不安そうな顔と、期待に満ちた顔
それぞれの表情に送り出される
送り出された家の玄関の前、私は大きく深呼吸をする
今での準備を無駄にしないように
ううん、一緒にお祝いがしたいから
だから、絶対にきて貰わなくちゃ

極度の緊張
「……なんだってんだ?」
詳しい事は何も言わないで
――だって、詳しいことを話したら、絶対に嫌がると思ったんだもの
無理矢理つれてきた一件の家の前
どきどきしている私とは対照的に、不審そうに建物を見ている
「……………………」
扉にふれようとした手が止まる
「何考えてる?」
「え?何って…………」
必死でごまかそうと思うんだけど、とっさに言葉が出てこない
ここまできて、帰ったりしないよね?
「あの……………」
あたふたしてる私をしばらく無言のまま見ていて
「行けばいいんだろ、行けば」
あきらめたようにため息をついた
とっさに何度も頷く私の目の前で、扉が開いた

「Happy Birthday」
重なり合った複数の人の声
同時にならされるクラッカーの音
広くない室内にいる皆さまを見渡して
「……………なんだって?」
呆然とした顔で、振り返るアリオスの姿
私は、アリオスの室内に押しやって、扉を閉じる
「今日お誕生日でしょう?」
きっと大丈夫、喜んでくれる
頭の中で何度も繰り返している言葉を呪文のように繰り返す
「だから、ね………」
一言一言、アリオスに伝わる様に気持ちを込めて言葉を続ける
「お誕生日おめでとう」
アリオスが、周囲に視線を向ける
みんな、柔らかな表情でアリオスを見ている
「……ったく、暇なやつらだぜ」
そう言って、アリオスは優しい笑みを見せた

パーティーなんて、くだらないモノはない
着飾った男女が
偽りの笑みを浮かべている
誕生日なんて何の意味がある
誰もが皆
思ってもいないことばかりを並べたてる
未だ鮮明な古い記憶、嫌な思い出
こんな風なパーティーがあるとは思わなかった
……いや、こういうのは普通パーティーなんていわねえよな
「アリオスっ」
背後から掛けられる明るい声
本気で俺の誕生日を祝う、物好きな奴らの姿
「主役がこんなとこで、何やってんだ」
肩に回された腕が、強引な力で、皆の元へと引きずっていく
「わかったから、手を離せ」
文句を言いながらも、引き離す気にならないのは、なぜだろうな
不思議に心地よい感覚に俺は苦笑いを浮かべる
……わかりきったことじゃねーか
こいつらが、こういう奴らだから、なんだよな

深夜、日付が変わる時刻
静まり帰った家の窓辺にアリオスは一人佇んでいた
脳裏に思い浮かぶのは今日の出来事
こういうのだったら悪くないぜ
口元に楽しそうな笑みが浮かんでいたことにアリオス自身気づかなかった
 
 

END
 
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