手合わせ
 

遠く聞こえた音に足を止める
鋼が打ち合う音と鋭い声
良く知っているが、ここで聞くのは珍しい音
耳を澄ませれば、音に紛れて複数の人の声が聞こえる
―――どれも良く知った声
緊張感に満ちた気配と、どこかのんびりとした気配
真逆の空気が混じり合うおかしな空間へ、ゆっくりと足を向けた

奥まった場所にある開けた空間
―――こんな馬鹿騒ぎをするには都合の良い場所
「………暇そうだな」
欠けることなく綺麗に揃った顔に、感心半ば呆れながら声をかける
とたんに返って来るのんきな言葉の数々と、諦め混じりの言葉
彼等の前方広場の中央には、手合わせをする2人の姿
彼等の手に握られたのは、剣と―――
「お前等、いったい何やってんだ?」
目の前の手合わせは、どうにもアンバランスな光景
剣対弓の戦い
………この組み合わせで、模擬戦が成立してるってのもおかしな話だ
アリオスの問いかけに、年少の者達が一斉に口を開く
子供らしい、他愛もない疑問
『誰が一番強いのか』
それぞれが様々な理由を挙げて、いつの間にか口喧嘩へと発展して
それならいっそ、実際に手合わせをすれば良いんじゃないかなんて単純な話に行きついて
どうせだから、と上手く乗せて全員を巻き込んだ
ただのお遊び、ただのイベント
獲物は自由
組み合わせはくじ引きで
強引に進められた結果、繰り広げられるのは先程から続くおかしな光景
ってな事らしい
「………あっそ」
こいつらとことん暇なんだな
久しぶりに訪れた、何のトラブルもない純粋な休日
こんな時こそ好きに時間を過ごせば良い物を、遊ぶ為の施設がまだ足りないのか、それとも時間がありすぎて使い方に困っているのか、くだらない事に全員参加をしている姿にしみじみと思う
「アリオスも参加するよね」
満面の笑みでの誘いに、ため息が零れる
―――悪いが俺はそれほど暇じゃない
そう言う筈の言葉は喉の奥へと仕舞い込む
余りある時間を持て余したのは、アリオスもまた同じ
笑みを浮かべて剣をとる
―――たまにはつきあうのも悪くはない
参加者として足を踏み入れたアリオスの目の前でおかしな戦いの決着が付いた

鋭く空を切る音
打ち鳴らされる鋼の音
遠く近く聞こえる声
幾つも続く連続音に、何故か心が落ち着く
命の遣り取りのない無いただの手合わせ
平和な世界、平穏な時間
―――こんな時に実感するのもおかしな話だ
柔らかな笑みと共に、アリオスは鋭い一撃を振り下ろした


 
END
 
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