お使い
 


「ああ、陛下―――」
いつもの通り道
その日は、いつもは顔を合わせる事も無い相手が居て
いつもは掛けられる事の無い声が掛けられた
呼びかけに何気なく足を止め
足を止めた事に後悔する
滅多に無い頼まれごと
いや、頼まれること自体は別に構わない
内容が、それでなかったならな
悪気のない、にこにこと嬉しそうな笑顔に当てられて
断る事が出来なかったことが敗因

すれ違うたびに向けられる驚いた様な視線
すれ違った後を追ってくる視線
そして、遠巻きに聞こえるざわめき
それがなんで向けられているのか、解りすぎる程解っていて、舌打ちをする
「なんで、俺がこんな………」
向けられる視線に、自然に機嫌は降下していく
一刻も早く目的地に辿り着こうと足早に廊下を歩くが、無駄に広い宮殿の中は、思っていたよりも人目にさらされる
―――いっその事
「どうかしたのか?」
一息に目的地へと移動しようとしたこのタイミングで、阻止するかの様に声がかけられる
「別に何もしちゃいねぇよ」
廊下の向こうから顔を覗かせたのはヴィクトール
「それにしては、物騒な気配が………」
ゆっくりと、俺の正面の位置まで回り込み、言葉を止める
僅かに見開かれた目が、驚きを現している
「………なんだ?」
「いや………」
わざとらしく反らされる視線
「悪かったな、似合わなくて」
「いや、そんな事はっ………」
不機嫌な俺の声に、ヴィクトールが慌てて、取り繕うとするが………
ため息を一つ吐いて脇を通り過ぎる
俺だって、他の奴等のこんな場面に出くわしたら、取り繕う言葉も出てこない
………いや、出くわした相手にもよるか
まぁ、少なくとも、ヴィクトールは、似合わない分類に入るだろうぜ
………やっぱ、跳ぶか
幾つかの視線が、絡む様に追ってくる
不愉快な気分を抱えながら、アリオスはその場から姿を消した

数歩足を進め、アリオスは突然姿を消す
数秒時間をおいた後、辺りから幾つものため息が零れる
遠巻きにアリオスを見ていた者達が、散り散りになって行く
「面白いものを見せて貰ったって所かな?」
彼等にならい、足を踏み出したヴィクトールの耳に、突然セイランの声が聞こえた
「居たのか」
「居たと言うよりも見物にね」
無意気にため息が零れる
「勿論本人には、言わないよ、僕だってまだ命は惜しいからね」
楽しげな足取りでセイランが立ち去っていく
「また、騒ぎになりそうだな」

空気が揺れる
慣れた感覚に、私とレイチェルはほんの一瞬動きを止め身体の位置をずらす
不機嫌そうな顔でアリオスが現れる
少し乱暴な足取りで私へと近づいて
「………どうしたの?」
目の前に差し出されたのは大きな花束
「庭師のヤツが持っていけってよ」
少し乱雑に渡された花を私は笑顔で受け取る
「へぇ、綺麗に咲いたじゃナイ」
何処からか花瓶を取り出したレイチェルが近づいてきて、抱えきれない程の花に困った顔をする
「でもサ、これだけ多いとさすがに飾りきれないヨ」
レイチェルの手が、巨大な花束の中から幾つかの花を手際よく取り分ける
そうね、これ全部を飾るとなれば、部屋の中が花だらけになっちゃうわ
それも悪くは無いかな、なんて思うけれど
「せっかくだから皆様方にもお裾分けしようかしら?」
「分けるんならお前達で持って行けよ」
不機嫌そうなアリオスの言葉に、私はレイチェルと顔を見合わせ
「解ってるわ」
返事をする
それから私達は、人数分の花束を作って二人で手分けして抱え持つ
「それじゃ、行ってくるからよろしくね」
執務室の扉を閉じて、私達は小さく笑う
「花ぐらいで不機嫌にならなくてもイイのにネェ」
レイチェルの言葉に、こっそり同意して守護聖達の執務室に向かって歩き出した

それから数分後
花を持って歩く私達の耳に入った幾つかの言葉
セイランさんが楽しげに囁いた言葉
在る意味注目されて当然の行動
「不機嫌になる理由もわからなくはナイけどサ………」
でも、アリオスはわかっていないわよね
呆れた様なレイチェルの言葉に、私は複雑な気持ちで頷いていた

 
END
 
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