遭遇
 


 
不意にあらわれた人影
その姿に声が零れる
「――――――ス」
正面から向き合う形となった相手が、視線を向け
訝しげな表情をする
記憶にない
知らない相手
言葉にするならばきっとそうだ
「………誰だ?」
当たり、だ
知らないのなら、それでいい
知らないのなら、俺は“彼”の人生の中で存在しなかったということ
俺はただゆっくりと首をふる
何か考えるそぶりをして
「そうか………」
ただ、一言
“彼”もその質問が無意味なものだと知っている
ここは、空間を繋ぐ場所、界と界の狭間
“俺”と“彼”は別の世界の人間
こんな偶然でもなければ、顔をあわせることのなかった相手

「それでは、な」
己の戻るべき位置を見つけたんだろう、“彼”がそう言い背を向ける
自分を知らない“彼”
穏やかな表情をした異界の男の後ろ姿を黙ったまま見送る
消え去ろうとするその姿は、存在することの無い幻
「じゃあな」
消えていく背中へ向けた一言
在ったかも知れない、未来の形
その形が、かつて望んでいたモノと同じであるとは限らないが
彼は、己が選ばなかった道を選んだんだろう
どこかの道の分かれ目で、彼は選ぶことができたんだろう
「幸せなら、それでいいさ………」
複雑な感情を抱えながら、彼も己の帰るべき場所へと向かう
遠くから、自分を呼ぶ幾つもの声が聞こえる
「………おかげさまで幸せに暮らしている」
誰かへと向けた言葉が、こぼれ落ちた

 
END
 
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