旅立ち
 


 
心臓が壊れる程の緊張と共に差し出したチケット
受け取った係員がチケットを見つめ、自分へと視線を向ける
「………ちょっと待ってろ」
他の人とは違う反応に、不安が膨らむ
「う、うん………」
緊張に上ずった声が上がる
一瞬こちらに顔を向けた相手が、緩く首を振りながら壁の裏へと消えていった

人がざわめく声が聞こえる
彼等は自然に足を止め、幾つかの視線を交わす
一人、足早に離れていく
「さて、大きなトラブルでは無いと良いのですが」
いつもと変わらない口調にただ肩を竦めた

言われた事が理解出来なかったんだろう
呆然と立ちつくしていた子供が不意に泣き出す
話を聞いたんだろう同僚達も
やっぱり
と言った顔で、遠巻きに様子を見ている
誰か助けろ
と思わなくも無いが、彼等の気持ちも良く解る
何て言葉をかけるべきか
どう言って慰めるべきか
きっと誰も良い案なんてものは持っちゃいない
立場が違えば、俺も同じ行動を取る
せめて相手が大人だったらな
運が無かった
そんなこともある
なんて言葉も言える
だが、これは………
目の前で泣く子供の姿にため息が零れる
だからと言って、ここでずっと泣かせておくわけにも行かない
どうにかしてやりたいとは思うが、自分達ではどうにもならない
「………あーー」
意を決して口を開こうとしたその時
「一体何の騒ぎですか?」
聞き慣れない声が問いかけた

「偽チケットですか」
戻ってきた者からの報告にエルンストは眉をひそめる
「はい、どうやらソレを売りつけられた様です」
「自分で使用するのでは無く売りつける、ですか」
確かに、自分達が使用するよりは安全かもしれませんね
「売りつけられたって事は持ってたヤツに嫌疑は掛かって無いってことだろ?」
宙港内の騒ぎは小さくはなったが、収まってはいない
「はい、それなんですが………」
アリオスの問いかけに彼の表情が暗く曇った

エルンストはそっとアリオスへと視線を向ける
「よりによって………」
騙されたのは少年
これから起きるかもしれない、様々な事を予想して、ため息が零れる
「それで、その少年の行き先はどこです?」
エルンストの言葉に、幾つもの視線が弾かれたように向けられた

窓を覆っていたカバーが開く
外に広がる星空
窓へと張り付いた少年の背後から、からかう様な言葉が聞こえた
 
 
 

END
 
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