聖獣
「アルフォンシア」
聞こえてきた声に顔を上げる
足が存在しない大地を蹴る
ここではない場所で呼ぶ声
見えない何かをくぐる様な感触を身体が感じる
抜け出した先で、優しい手が触れた
声が聞こえる
宇宙の声
この世界に生きる者達が上げる様々な声
小さくか細い声
幾つにも重なり合った言葉
交わり合った言葉を声を、私は一つ一つの声として聞き分けることはできない
ただ、なんとなく伝わってくる感覚
聞き分けられるのは、複数の者が上げる同じ言葉
小さな声
微かな祈り
その全てを聞く事はできないけれど………
「アルフォンシア」
そっと名前を呼ぶ
彼は宇宙の意志
彼が居れば、小さな声を聞き分ける事ができるから
薄膜一枚隔てた所から―――そう表現したのはアリオスだった?―――アルフォンシアが現れる
私は彼へと手を伸ばす
柔らかな毛並み
暖かい体温
大きな体を静かに撫で
そして、その体へと寄り添う
「アルフォンシア」
気になる声が聞こえるの
小さくて聞き取る事は出来ないけれど
他の声に紛れてしまって、どんな声なのかも解らないけれど
私はあの声を聞かなければならない
そんな気がするの
アルフォンシアが、そっと身を寄せる
音が聞こえる
―――声が聞こえた
触れた手から伝わる声
彼女が抱いた望み
辺りに満ちる願い、祈り
望みに従って、幾つもの声の中から見つけ出す
聞きたいと願われた言葉―――感情
掬い上げた言葉は、か細く、けれど真摯な願い
はっきりと聞こえた声
いつのまにか閉じていた目を開ける
「聞こえた?」
「ええ、ちゃんと聞こえたわ」
お礼の言葉と共にアルフォンシアから手を離す
「………助けてあげないとね」
柔らかな身体をそっと撫でる
大丈夫よ
ちゃんと助けてみせるから
帰って行く姿を見送る
ここであってここではない場所
この世界の中心地
きっとあの声の事は任せておいて大丈夫
その場に立ちつくしたままアルフォンシアは耳を傾ける
聞こえてくるのは様々な声
幾つもの声に耳を傾けて
そうして―――
ああ、声が変わった
さっき拾い上げた声
さっき拾い上げた言葉
同じ声が告げる違う言葉
アルフォンシアはその声を聞いてゆっくりとその場を離れる
嬉しそうに笑って、そしてそこから姿を消した
END
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