街並み
 


 
強い風が吹く
小高い丘の上に立ち眼下を見下ろす
遠くから聞こえる人々の声が家並みから聞こえてくる
道沿いに連なる家々は大分多く増え
隙間無く家が続く場所さえも見える
「随分増えたな」
「そうね」
思っていた事と同じ感想に、私はすぐに返事する
思い出すのはここに来た当初のこと
ただ、私達が住むために用意された宮殿だけがぽつんと立っていて
ここは何も無い場所だった
宇宙の成長と合わせて少しずつ整えられた場所
頭の上に触れる温もり
宥めるようにふわりと乗せられた手の感触
しんみりとした気持ちが何となく明るくなる
街中を歩く人の姿
楽しげに走る子供の姿も見える
賑やかな街
聖地の様々な場所にある施設
点在していた施設の周囲にも住宅地が広がって
ちゃんと一つの街になっている
こんな風になるなんて思っていなかったな
かつて、1年という僅かな時間を過ごした場所
当初、私達が目標としていた場所
時間が掛かってもあんな風になればいい
なんてことを思っていたけれど
あの場所とはまったく違った風景
この場所は、この宇宙の聖地らしい姿になった
そんな風に思うのだけれど
「いい景色だな」
まるで私の心を知っているかの様なタイミングで掛けられる声
本当に私の心を読んでいるんじゃないかなんて思ったこともあったっけ
「この宇宙らしいでしょ?」
そう言って私は胸を張る
「ああ」
からかうことの無い言葉に自然に浮かぶ笑み
丘の下に建つ屋敷へと、何人かの人が入っていく
「来たみたいだな」
始めは彼等を隔離するかの様に建っていた、守護聖達の邸
見えない壁も今では消えて
例えばすぐ側に立つ民家
例えば気軽に家を訪ねる人々
憧れは憧れで、何時からかこんな風な世界にしたいと、そう思い描いていた世界
その全てが叶った訳ではないけれど、この宇宙は唯一の世界
「みんなのおかげだわ」
ただ望んだだけでは
ただ命じただけでは
出来上がらなかった世界
風に吹かれながら見つめる目に、大きな掌が映る
「そろそろ行くぞ」
遅くなると煩い
その言葉に私は思わず笑って、手を取る
「行きましょう」
手を引かれ背を向けた光景を振り返る
これからもこの世界が発展していく姿を―――
私の思いを攫うように心地よい風が吹いた
 
END
 
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