感傷

 



一面に広がる白い霧
霞みかかった霧の向こうにかすかに見える森の姿
遠くから聞こえる気がする声
窓を開け放った姿勢のまま、アンジェリークはしばらくの間立ち尽くしていた

窓を開けたら、白い霧が掛かっていたから
「一瞬ね、ここがどこだか解らなかったわ」
聖地では無い場所で、以前毎日見ていた景色にちょっとだけ似ていたから
今がいつなのか
ここがどこなのか
ほんの一瞬だけ見失った
正気に戻したのは、背後からのいぶかしげな声
振り返って、その姿を目にして
“今”を思い出した
不思議そうにかすかに首をかしげて、すぐ隣まで足を運ぶ
そして、窓の外へと視線を向けて
「すげぇ霧だな」
かすかに笑って
きっと気がついたのに、
これがどうした?
なんて聞いて見せる
相変わらず意地悪だわ
「似てるでしょ?」
だから私も同じように、まっすぐ目を見つめながら笑いかける
忘れられるはずのない風景、大切な思い出
そう思っているのは、私だけでは無いでしょ?
あなたの態度を誤解することも無いくらいには、私もちゃんと成長している
「………そうだな」
先に目をそらして、少しためらってからの返事
私はそっと手を伸ばして、彼の左腕を掴む
手に触れる暖かな温もり
腕を引こうとする力を感じて
「アルカディアにいるのかと思ったの」
私はとっさにそう言っていた
解ってる
ちゃんと解っているけれど、実感したいの
“今”が間違い無く現実だって、そう信じたい
腕から力が抜けて、小さなため息
「………現実だろ」
「そうだね」
何となく会話の無いまま、二人で窓の外を眺めていた
 
 

END
 
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