きろく



偶然手に入った古びた冊子
中には色あせたインクで書かれた手書きの文字
走り書きが続くこれはメモを記載したもの
誰かが手帳代わりに使っていたものだろうか?
拾い読みした記録の中には土地の名前や誰かの名前が書いてある
この日は誰かと会う予定で
この日はどこかに出かける予定
その人に何の用事で会いに行くのか
その場所に行って何をするのか
そういった詳しい事は書かれてはいない
走り書きには日付さえ書かれていない所もある
「忙しい人だったんだろうな」
所々、思い出した様に出現する日付
たぶん、毎日の様に埋められた用事
「随分遠くまで出かけるんだな」
読み取る事の出来た地名の数々
知らないものも───地名か人の名前なのか判別がつかないものも多かったが
知っている地名も、宇宙各地に散らばっている
いつの時代のものかは解らないけれど、これを使っていた人は随分顔が広かったらしい
どんな人物なのか、手がかりが何も無いそれのページをめくる
メモの中には時折解読出来ない文字も混ざっていたり
読み進める内に、今は改名された土地や国の名前が出てくる
この手帳の持ち主は、なかなか昔の人間なのかもしれない
何代か前の祖先、かな
これを見つけたのは家の物置だ
誰かの忘れ物とか、どっかで買った物に紛れていたとか
そんな可能性もあるけれど、きっと先祖の誰かのものだ、そう思った方が楽しい
「もともと宇宙を巡った旅人だったっていうしな」
父に聞いた初代は、宇宙全域を旅して回った人物だってことで
うちの家系には数代おきに気ままに旅に出る人が現れるそうだ
これの持ち主もきっとそんな人の1人、かもしれない
時には単語だけの文字
これの持ち主がどんな人だったのか
何をしに行ったのか
いろんな事を想像しながらページをめくる
一つの文字を目にして、ページをめくる指が止まる
“聖地”
いつもと変わらないメモ書きは、明日“聖地”へ向かうというもの
主星の中心に位置しているが、簡単には出入り出来ない場所
聖地を訪問するには幾つかの審査に合格しなければならず、父も祖父も行ったことの無い場所
何時かは行ってみたいものだと、そう口にする場所
ページをめくる
どこかに聖地について記述しているところが無いかと確認するが、相変わらず書き記されているのは地名と誰かの名前
最後のページをめくり、ため息がこぼれた

それから、時間が立って
聖地へと続く門を見上げる
立ち止まり見上げて数十分の時間が過ぎたが、誰1人巨大な門をくぐる人の姿は見えない
門の向こうは霞がかって中を見ることは出来ない
同じ場所にあるはずなのに、あそこから先は全く別の場所なんだろう
あの門の向こう側にはきっと見た事も無い景色が広がっているんだろう
門の向こうに思いを馳せて、向こう側へと歩き出した
 

END
 
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