まほう


 
ある朝、扉を開いたら目の前に真っ白い猫がうずくまっていた
警戒するようにこっちを見て
低い唸り声を上げる
足ににじむ血の跡
手当てをしようと手を伸ばせば、痛む足を抱えて必死で逃れようとする
「なにもしないよ?」
怪我をしたその体で、自分自身を守ろうとする姿
人を信用していない眼
深い傷が伺える眼の色
その様子にこれ以上の手出しができなくなる
伸ばした手を引いて
走り去る後ろ姿をただ見送った

夕方、窓の外で猫の泣き声が聞こえた気がして慌てて窓を開く
薄闇の中、窓の下でうずくまる人影
………アリオス?
手が窓に触れ、微かな音を立てる
振り返ったアリオスと目が合う
「何してるの?」
立ち上がり近づいてきたアリオスの腕の中で、甘えるような鳴き声
開け放った窓の向こうから、押し付けられたのは、真っ白な猫
猫は戸惑ったように、アリオスの方を見て
私の腕の中におとなしく抱かれている
「この子………」
足に残る血の跡
今朝の子、だよね?
あれほど警戒していたのが嘘のように、安らいでいる
「そいつ、任せたからな」
声に我に返れば、立ち去っていく後姿
アリオスを引きとめようとするように、腕の中で、猫が一声高く鳴いた

真新しい包帯を巻いて
ベッドの上で猫が眠りについてる
安心しきったその姿
そっとその背に触れても眼を覚まさない
胸の奥で、聞きたいことが渦巻いている
…………アリオスはどんな魔法を使ったの?
疑問に答える人の居ないまま、夜の闇が深く染まっていった

END
 
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