そこに存在する理由


 
いつもの丘、いつもの木陰
アリオスは、その巨木の根元に座り空を見上げていた
まとわりつくような重い空気
厚く覆われ、圧し掛かるかの様な空
何かを感じたのか、外を出歩く人々の姿が少ない
―――嫌な感じだ
何かが覗き見ている
周囲を包囲するかの様にはびこる気配
濃密な空気が突き刺さる
アリオスは、じっと空を睨み据える
やがて、気配が薄く大気にとけ込んでいく
相変わらず続く嫌な感覚
―――良くない事が起こりそうだ
アリオスはゆっくりと立ち上がった

「陛下?」
ロザリアが呼ぶ声に、女王は我に返った
……今の……
何か嫌な感覚が通り過ぎた
「どうされました?」
厳しい表情をして、窓の外を見つめる様子にロザリアが近寄ってくる
「時間が無いわ」
こぼれ落ちた言葉に、ロザリアが顔色を変える
「そんなはずないわ、まだ猶予期間があるはずでしょ?」
重く垂れ込めた不気味な空
「そのはずだったわ、だけど……」
私だって今の今まで、力が衰えたとは思わなかった
計算が間違っていたなんて、思わない
実際に、まだ疲労や負担は感じていないのに
「でも、何かが通り過ぎたわ」
私の守りの内側に、いつの間にか入り込んで来た
「そんな……」
「ロザリアは感じなかった?」
固く強ばった表情
そう、ロザリアには解らなかったんだ

……え?
何かが突き抜けていった
今のは何?
道の途中で足を止め、アンジェリークは空を見上げる
嫌な感じ……
静かに風が吹く
ねっとりとした感覚
側を歩いていた人が辺りを見渡し、走り去っていく
空の彼方から、こちらを見つめる眼
「……いやっ」
小さく上げた悲鳴に、幻覚が消える
何、今の……
震える肩を抱き、恐る恐る辺りを見渡す
尚もどこからか感じる視線、敵意
彷徨う視線が、家の中から不安げに外を伺う人の姿が見えた

「そう、私達以外は何も感じなかったの……」
急ぎ召集された場所で開かされた言葉
とまどった様な顔の人達
「失礼ですが、私には陛下のお力に変化があるようには……」
「私もそう思いますわ」
「それは、私もそう思うの、でもね、何かが通り過ぎていったのは確かなのよ」
困惑した様に告げる女王の言葉
……嫌な感じ
話し合う人々の声を耳にしながら、アンジェリークは漠然とした不安を覚える
何か、嫌な事が………
「…………………何か足りない気がするって」
思いに沈んでいたアンジェリークの耳にメルの言葉が飛び込んでくる
「みんなそう言うんです」
……不安そうに辺りを見渡す人々の姿
「その辺に何かあるのかも知れないわ」
女王の言葉に押し黙ったまま、返事が無かった

取り囲むように周囲を覆う邪悪な力
進入しようと、手足を伸ばすその様子が手に取るようにわかる
不安そうに、辺りを見回す人々の姿
『何かが違う』
声に成らない声が聞こえてくる
『此処は……何処だろう』
自らが存在した土地との差異
次第に強くなる不信感
聞こえてくる声に耳を傾け、アリオスは人々が求めるモノをゆっくりと探っていた

「もしかしたら、なんだけど……」
話し合いが続く部屋の中で、今で黙っていたレイチェルが考えながら口を開く
「あの人達って、未来の人間なんだよね?」
未来から来た大陸にはじめから住んでいた人々
「だったら、未来の世界で存在していて今存在しないモノって事はない?」
室内の空気が一瞬凍り付いた
「それって……」
何かが弾ける気配
「!!だめっ!」
女王の悲鳴が聞こえる
大陸を包んでいた守りの力に、側から穴が開いた

知らないうちに蔓延した不安が、やがて不信感に変わる
あるはずの気配
感じ取る訳ではなく、長い間この地に住んでいた人々は、それを知っている
あって当然のソレが無い
漠然とした不安を抱いていた人々に、小さな少女が不安げに語りかけるのが見えた
『……なんで………』
人々の感情が爆発する
この世界を否定する想いの数々
アリオスは弾かれたように身を起こす
守りの力へと、守護するべき人々の手によってうがたれた穴
機会を狙っていた邪悪な意志が首をもたげる
開いた穴へ身を入れようとする存在に向け、咄嗟にアリオスは力を叩きつけた
邪悪な意志がひるんだ瞬間、出現したもう一つの力
穿たれた力の下に、覆うように翼の幻影が見える
輝く翼が宙に解け薄い膜が生じる
……アンジェリークか
アリオスが放つ力が薄く張られた膜を通り過ぎていく
邪悪な意志を外へと追いやると同時に穴が閉じた

女王の声と共に押し寄せてくる邪悪な感情
させない!
アンジェリークは、邪悪な意志から守る為に力を広げる
力がぶつかる衝撃に身を固くし、身構える
すぐ側を強い力が駆け抜けていった
……え……
邪悪な意志と真っ向から対峙する一振りの剣
剣が邪悪な意志を切り裂いていく
………アリオス?
女王の力に重ねる様に広げた力をすり抜けて行く強い力
邪悪な意志がアリオスの力を受け、外へと追いやられる
ゆっくりと閉じていく穴の外側を覆うように、侵入者を排除する刃の柵が出現した

そして数日が過ぎ
相変わらず、大陸を覆う女王の力の外側にもう一つの力が存在している
人々は、空を見上げ安堵の笑みを浮かべる
『足りなかったモノが戻ってきた様な感じがするんです』
問いかけの言葉に彼等は口をそろえてこう答えた

「ねぇ、メルちゃん」
比較的平穏な日々が続くある日、占いの館にオリヴィエが現れた
「あれオリヴィエ様、どうしたんですか?」
「ちょっと頼みがあるんだけどねぇ」
「頼みって………」
含みのある笑みを浮かべ、オリヴィエが身を乗り出す
「アリオスの居所探ってくれない?」
「えぇー!?」

その日から数日、占いの館は臨時休業した

END
 
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