雨音
――好奇心と雨宿り――


 
見上げる空は、暗く今にも雨がふりそうな天気
道行く人は、空を気にしながら、急ぎ足で通り過ぎる
濡れるのを嫌がる人々の中で
次第に曇っていく空をわくわくしながら見つめる
久しぶりに体験する雨
雷が鳴るのは嫌だけど、雨が降るのは好き
土砂降りの雨はちょっと困るけど、少量の雨に濡れるのは好き
真っ黒に染まった空から、ぽつぽつと雨が降ってくる
嫌そうな顔で、走り出す人々の姿
楽しそうに空を見上げて歩く私を不思議そうに見ていく人達
軽い音を立てて、降り注ぐ雨の中を
街はずれへと、歩いていった

どうしよう………
一軒家の軒先で雨宿りをしながら、アンジェリークは、青ざめた顔で空を見上げる
次第に激しくなる雨は、止む気配が無い
轟音と共に流れ落ちる滝の様な雨
遠くで聞こえる雷鳴
軒先を借りている家の人へ助けを求めようにも、留守なのか人の気配がしない
街から離れた森の中のこの場所からは、他の建物が見えない
心配してる、かな?
狭い屋根の庇では、激しい雨を充分に避ける事ができない
冷たい雨が容赦無く身体に降りかかる
ずぶぬれになりながら、立ちつくしていた

ったく、ついてねーぜ
不意に降り出した激しい雨に濡れながら、アリオスは悠然と歩いていた
まるで水が流れ落ちる様な激しい雨のおかげで、数メートル先が見えない
見えない視界の中、辺りの気配を感じ取りながら確実に歩を進めるアリオスの感覚に、不意に見知った気配が飛び込んできた
………何やってんだ?
この世でただ一つの気配が、不安そうに揺れている
大雨の中動かない気配に向かい、アリオスは深いため息と共に近づいていった

激しい雨の中で近づいてくる人影が見えた
あ、もしかしてこのお家の人かな?
降り続ける雨のせいで、どんな人なのか、はっきりと解らない
そうだったら、雨が止むまで家の中に入れて……………
「こんなとこで、なにやってんだ?」
え?
聞き慣れた声、雨の中から現れる姿
「アリオス!?」
どうしてアリオスが?
こんな天気の日にこんな場所でいったい何やってんだ?
呆れかえったような口調
「な、何って…………」
散歩してたら雨に降られたで良いのかな?
それとも、雨が降ってきたから雨宿りの方が……
「まさか、雨の中ふらふら出歩いてたはずないよな?」
「あ、雨宿りしてるだけよ」
反射的にそう答えたけれど
………絶対気づいてる
面白そうに笑うアリオスの表情が、なんでこんな場所にいるのか、知ってる事を物語っている
「それで?いつまで此処に居るんだ?」
「いつまでって……」
咄嗟に見上げた空は、雨が止む気配がしない
「……止むまで此処にいるつもりか?」
ため息混じりの声
土砂降りの雨に濡れながら、空を見上げている
「当分止まないと思うぜ?」
アリオスは、水の中を泳いだみたいに濡れている
「……アリオスこそどうして此処にいるの?」
こんな人気の無い場所に、雨の中わざわざ訪れる用事なんて……
「さぁな」
口元に微かに浮かぶ笑み
それよりも
「帰らなくて良いのか?」
意地の悪い質問
「帰れるなら帰ってるもの……」
そんな事も分かってるくせに……
恨めしげに見つめると、面白そうに笑って…………
――え!?

過去に何度か体験した感覚
目の前の光景が、一瞬歪んで……
次の瞬間アンジェリークは、自室の中央に立っていた
「え、えぇーーーっ!?」
今までの出来事が幻の様に感じられて
でも、そうでない証拠に雨に濡れた服がそのままになっている
「……アリオスが送ってくれたんだよね?」
小さく呟いたアンジェリークの目の前で
「どうしたのアンジェ!」
勢いよく扉が開いた

それとほぼ同じ頃
森の奥深く、隠れ家の様な一軒家
少し乱暴に扉が開き、ずぶぬれの住人が帰宅した

END
 
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