見知らぬ街


 
照りつける日射しに夏の暑さを感じる季節
空には降る様な星が浮かぶ夜の出来事

バルコニーに佇むアンジェリークの髪を風がさらう
暑さを感じる日中と違い
吹き抜ける風は涼しく心地よい
日中の日射しにほてった身体を冷ましながら空を見つめる
地平線の向こう、沈んだ太陽が残す残光
空の大部分を占めた夜の闇の中に、星々が浮かんでいる
―――綺麗だな
途絶える事のない風が空を渡る
次第に冷えていく身体
無意識の内に冷えた腕を抱きしめる
残されていた太陽の光が消え
月の光と星の光が辺りを照らしている
アンジェリークは、身動きもせず空を見つめている
空を彩る見慣れない星々は、手を伸ばせば触れそうな程近い
次第に冷たくなる風
強い風が吹き抜けた後、中空に現れる人影
アンジェリークは柔らかな笑みを浮かべ、人影を迎え入れる
「……行くぞ」
辺りを警戒しながら押し殺した声が告げる
「ええ、アリオス」
差し伸べられた手をそっと掴む
次の瞬間二人の姿はその場からかき消えていた

「………まさか、日が暮れたらみんなおとなしく寝てるなんて思ってるんじゃないだろうな?」
いつもの様に訪れた草原
アリオスとの何気ない会話
「そ、そんな事無いわ」
話はいつの間にか、この地に暮らす人の事になって、街の事になった
「……だって、夜の街って見たことないんだもの……」
だから、夜の街の様子なんて知らないし、昼と夜でお店の内容も変わるなんて初めて知った
「へぇー、見たこと無いね」
ばかにしたような口調
「どうせ、夜は危険だとか言うんだろ」
アンジェリークは、反論しようとした言葉を飲み込む
「そんなことだと思ったぜ」
呆れた顔をしているアリオスに、弁解の言葉も、フォローする言葉も飲み込まれる
でも、何が起こるか解らないのは本当の事だもの
ほんの少しの無言の時間
「それなら、アリオスが一緒に行ってくれる?」
何気なく口をついた言葉だけど、言葉にした後、これ以上の妙案は無いと思った
きっと、アリオスが一緒なら何が起こっても大丈夫
「…………おまえ……」
あ、驚いた顔をしてる
「アリオスが一緒なら危険はないでしょ?」
アリオスに微笑みかけならがら言葉を続ける
見つめる眼をしっかり見つめ返す
しばらくして視線を逸らしたアリオスが、深いため息をついた

閉ざされた扉の向こうに揺らめく灯り
柔らかな明かりを灯した小さなお店
見知ったはずの場所が知らない顔を覗かせている
初めて眼にする、夜の光景
「……おい」
突然眼の前に現れる腕
「しっかり前を見て歩け」
どかされた腕の向こうに柱が見えた
「あ、ありがとう」
恥ずかしさのあまり顔が火照る
何事も無かったみたいに歩いていく横顔
やがて、アリオスが足を止める
天使の広場の入り口
夜空の中、街の灯りを反射して輝く噴水
不思議な色をした灯りに照らされた露店は昼間には見たことのない品々が並んでる
「それで、何処に行くんだ?」
辺りの光景をボンヤリと見つめていたアンジェリークをアリオスの声が現実へと引き戻した

ほんの少し近くなった星空、足元に広がる街の灯り
来るときはほんの一瞬
同じように部屋へと帰そうとしたのだけれど
もう少し街の様子を見たかったから、歩いて帰る事にした
ただし、誰からも見つからないように歩く道は空の上
はじめての経験に、思わずすがりついた手はつながれたまま
ほんの少し早い歩調
ふわふわとした頼りない感覚
空気を踏みしめながら、何も無い中空を歩く
程なく見える部屋の灯り
足が固い石の感触をとらえた
つないでいた手が離れてる
「……じゃあな」
視線の先アリオスの姿が消える
「おやすみなさい、アリオス」
呟いた言葉を夜の闇が吸い込んだ

数日後、アンジェリークの夜間外出が、一部の守護聖に漏れた
彼は、ひとしきり悔しがった後、その足で光の館へと向かった
 

END
 
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