真実の想い


 
彼等の心をよぎる複雑な想い
遠い日々に想いを馳せ
体感した過去をなぞり
違えることのない真実を思いかべる
そして
彼等は、今を受け止める

とりとめのない話をして
ふと上げた視線の先
見つけた一つの人影
微笑みながら、ゆっくりと近づいてくる
「こんにちわ」
驚きのあまり硬直するアンジェリークの目の前で
「今日もいいお天気ね」
彼女は柔らかな笑みを浮かべた

呆然とした様子で、アンジェリークが私を見ている
その横で、溜め息と共に天を仰いだ男性
二人がそれぞれ考えている事が、私には解る気がする
…………特に、青ざめた顔色で私を伺うアンジェリークの考えている事は
きっと、彼をかばう言葉でいっぱい
だから私は、笑って挨拶をする
「今日もいいお天気ね」
あなたが心配する様な事なんて、何一つないのよ?

巧妙に辺りに溶けていた気配が不意に湧いて出る
気が付いた時には、すでに遅く
そいつは、ゆっくりとした足取りで近づき、笑いかけた
隠そうとしない強い気配
気配に気づいたアンジェリークが顔を上げ
呆然とその姿を見つめる
近づく人影に敵意はない
感じ取れたのは、隣にいるアンジェリークとよく似た穏やかな想い
俺達の前で立ち止まり
「今日も良いお天気ね」
と笑いかけた

「別に邪魔するつもりはなかったのよ?」
町はずれにある、小さなカフェ
目の前で微笑む少女の
『お茶でも飲まない』
の誘いの言葉で、アンジェリーク達はこの場所にいる
「……あの?」
頭の中で、必死で様々な言葉を考え、緊張したまま彼女の言葉を待っていたアンジェリークは、何を言われたのかわからず、彼女の顔を見つめる
「でも、息抜きに来たのに、一人でお茶なんて寂しかったのよね」
―――だから、誘っちゃった
そう言って小さく舌を出す
……え?
想像もつかない態度、言葉にアンジェリークの頭は混乱する
「あんた……」
「こんな風にお茶をするのも随分久しぶりなの、だから二人には悪いけど、少し付き合ってね?」
何かを言いかけたアリオスの言葉を遮って
彼女は、とりとめのないおしゃべりを始めた

目の前で繰り広げられる“女の子”の会話
戸惑っていたはずのアンジェリークも、いつの間にか彼女のペースに乗せられている
俺は……
この状況に、溜め息と困惑……そして、どうにでもなれという割り切りの気持ちでいっぱいだった
「それでね……」
「本当ですか!?」
時折笑い声を立てながら会話を続ける二人の少女
その辺にいる平凡な少女達と変わらないこの二人が女王陛下達だなどと誰が信じるだろう?
……もっとまともだと思っていたぜ……
アンジェリークと同レベルで会話するもう一人の女王へ抱いた正直な感想
一人思い悩むのもバカらしくなり、アリオスは少し離れた場所から二人の少女を観察していた

「今日はとっても楽しかったわ」
にっこりと笑い、陛下が立ち上がる
「あの……」
本当にお茶をしただけ……
その事実に陛下の真意が掴めなくて、立ち去ろうする陛下を呼び止める
「なぁに?」
にこにこと微笑み欠ける陛下の様子に、私は次の言葉が言いただせなくて、口を閉ざす
……だって、アリオスの事………
皆様方も、陛下も何も言わないけれど、そんなに簡単に割り切れるはずはないもの……
「あのね、アンジェリーク」

立ち去ろうとする私を呼び止める不安そうな声
振り返った私を見つめる、怯えを含んだ瞳
態度で示したつもりだったけど、わからなかったかしら?
「あのね、アンジェリーク」
不安そうにゆれる瞳にしっかり眼を合わせる
「もう、いいのよ?」
あなた達二人が不安に思う必要は無いの
「陛下?」
「もう終わったことだもの」
アンジェリークの眼が見開かれる
私は、少しでも安心して欲しくて、彼女に笑いかける
「何言ってやがる」
不意に届くつらそうな声
アンジェリークの背後でアリオスが強ばった表情をしていた
私は、アンジェリークを抱きしめ、アリオスへと向き直る
「だって、終わったことだわ」
そりゃ、守護聖や皆さん方、私達……いいえ、私にだって、いろいろ思うところもあるし、宇宙を蹂躙した侵略者には許せないっていう怒りの気持ちだってあるわよ?
……あって当然でしょ?
でもね
「アリオス、あなたは私やアンジェリークの宇宙を乗っ取ろうとか、良いように利用しようとか思ってる?」
「“あなたは”そんなこと思っていないでしょ?」
何かを言いかけた彼の言葉を制して、大切な事を言葉にする
小さな彼の同意を受け、私は言葉を続ける
「“侵略者である皇帝”は倒れ、私の宇宙は救われたわ」
私達だって、知っている事もあるのよ?
二人の視線を感じながら、私はゆっくりと言葉を繰る
「皇帝が復活して、同じ事を繰り返す事は二度とないんだもの」
もちろん、あなた達本人しか知らない事もあるわ、でもね、守護聖や教官……あなた達の近くに居た人だからこそ知ってる事もあるのよ?
「だから、もう終わったことなの」
二人とも、いろんな複雑な表情をしてる
でも、私は……私達は私達なりに心の決着をつけたのよ?
「それに、あなたは“アリオス”でしょ?」
にっこり笑って問いかけると、彼……アリオスは、戸惑ったような返事をした
「それなら関係ないじゃない」
必要以上に明るく言い放った私の言葉に、アリオスは息をのんで、眼を見張って、そして爆笑した

『それじゃあね』
満足そうに笑いながら手を振って消えていった陛下の後ろ姿が何時までも残像の様に残ってる
『もう終わったこと』
耳の奥で、優しい声が木霊してる
「……まいったな」
混乱してる私の耳に小さく呟くアリオスの声が聞こえた
「……うん」
そりゃ、陛下は当然なのかもしれないけど
……かなわないな
ゆっくりと心を落ち着ければ、大気に溶け込んだ優しい想いが感じ取れた

やさしく風が吹き抜ける
繰り返される穏やかな時間
ゆっくりと聞こえて来る想い
今度は……
今度こそは………

―――あなたが幸せに暮らせるように―――
 
 

END
 
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