そして使われる策略


 
「……もうなりふりなんて構ってられないわ」
いつもよりも数段低い声が
「卑怯だと言われたって………」
不気味な決意と共に
「後をつけましょう」
静かに響いた

アンジェリークは、辺りに気を配りながら、いつもの様に約束の地へと向かっていた
近づくにつれ足早になり、辺りに気を配るのも散漫になってくる
―――誰もついてこないもの……
心の奥にあるのは、疑うことを否定する小さな信頼
アンジェリークの姿が小高い丘の上に消えていく頃、物陰から数人の人影が現れた

いつもと変わらず木の下にある人影
自分を認める視線
手を振りながら駆け寄ると、背を預けていた木から身を起こす
「アリオスっ」
声をかければ微かに浮かぶ笑み
「何慌ててんだ」
呆れたような言葉
別に逃げやしないぜ?
言葉にされない言葉の続き
うん、もう黙って居なくなったりしないって解ってる
「そうだね」
だから、照れ笑いを浮かべた

いつもと同じ静かな時間
どこからともなく吹いてくる風が、草の薫りを運ぶ
風に髪を取られながら、続けられる会話
木の下で過ごす、穏やかな時間
「………アリオス?」
そんないつもと変わらないはずの時間、アンジェリークは、アリオスが何かに他の事に意識を向けている事に気が付いた
「ああ?」
「どうかしたの?」
「なんでもねーよ」
いつもと同じ口調の言葉
でも、ほんの一瞬浮かんだ表情が
「……何か企んでる?」
そんな感じだった
「何を企むってんだ」
アリオスはむっとした表情で、気分を害したとでも言うように、軽く頭をはたいたけれど、楽しそうに見える
…………やっぱり何かしたんだ
もちろん悪いことじゃなくて、ちょっとした悪戯なんだけど
最近、実はアリオスが悪戯をするのが結構好きだって事に気づいた
多分今も何かしたんだろうけど……
思わず辺りを見回して、何も仕掛けがないかどうか探してしまう
「失礼な奴だな」
笑いを含んだ声と一緒に掌が頭上から降ってくる
「だって、絶対何かしたでしょ!?」
今までの経験上、解るんだから
じっと、睨む様に見上げると、アリオスは小さく手を挙げて
「何もしてねーよ」
宣言するみたいに言い切って、私が安心する頃、
「お前には」
と小声で付け足した

何事もなく時間が経過して
私はいつもの様にゆっくりと丘を下る
振り返れば、木の下に佇むアリオスの姿が見えるのだけど……
どこか笑いをこらえてる様な感じ
………本当に、どうしたんだろう?
首を傾げながら、丘を下り、約束の地から一歩足を踏み出した

……………………え?
眼の前に突然出現した人の身体
ぶつかりかけた足がぎりぎりのところで踏みとどまる
目の前の鮮やかな色彩
私は、ゆっくりと、目線を上げる
……………………………
驚いた様に見下ろす顔
…………ええーーっ!?
それが誰なのか、理解して、声も出ない程驚いた
「オリヴィエ様!?」
きっと、私の声は絶叫に近かったと思う

『どうしたって中に入れないんだもの、焦ったわよ』
一体何があったのか詮索するオリヴィエ様を必死にごまかして、その場を切り抜けることができた
―――数日後―――
「……アリオスの仕業でしょ?」
じっとアリオスの眼を見て問いかける
「さあな」
眼の中で面白がってる様子が見え隠れしている
「……やっぱり」
わざとらしく溜め息をついたけれど、嬉しくて顔が笑ってしまう
だって、人が……オリヴィエ様が来れないようにしてたってことだもの

「まったく冗談じゃないわよ!」
アンジェリークには、偶然を装ってみせたけど、そりゃあの子は自分がつけられていたなんて、疑いも抱かなかったみたいだけど
頃合いを見計らって、現場に踏み込んでやろうとしたとたん、眼の前に壁ができた
どうにか突破しようと思ったものの、全く歯が立たないなんて……
「次こそ、覚えてらっしゃい!」
今度はそうはいかないんだからねっ

闘志を燃やすオリヴィエを遠巻きに眺め
「だから、止めた方が良いって言ったのに」
溜め息をつく少年達の姿があった
 
 

END
 
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