休息という名の息抜き


 
「がんばり過ぎなんだよ」
呆れた様に囁かれる声
……そんなことないよ
そう答えようとしたのに、答えたはずの声は、音にならない
「少し寝てろ」
囁き声が聞こえると同時に、意識がすとんと眠りの中に落ちていった

頬をくすぐる感触と、肌寒さにアンジェリークは目を覚ました
……あれ?
眼に入ったのは、綺麗な夕日
ぼーっとした意識で感じたのは、草花の匂い
ゆっくりと転じた眼に、巨木の枝葉が見えた
……どこだろう?
心地よさに、まだ覚醒しない思考がのんびりとそんな事を思う
「ようやく起きたか」
呆れたような、からかうような声が頭上から降ってくる
聞き慣れたこの声は……
アリオス!?
跳ね起きたアンジェリークの側で、笑い声が聞こえる
ゆっくりと振り返った視界に、木の幹に身体を預け座っているアリオスの姿が見えた
「ずいぶん気持ちよさそうに眠ってたじゃねーか」
「そんな事ないわ」
からかいの声に、条件反射の様に返事をして、アンジェリークは、自分が何処で眠っていたのか、ようやく把握した
「日が暮れるぜ?」
ここに来てのは、お昼の頃の事
沈みかけた夕日が意味するのは、それだけ長い間眠っていたって言うことで、アンジェリークは、言葉に詰まる
「……起こしてくれれば良いのに」
言い返す言葉が見つからなくて
せっかく一緒にいたのに
無駄にしてしまった悔しくて
深い理由も無しに、口にした言葉
だから
「ごめんだな」
アリオスの言葉に驚いた
え?
気にもたれかかったままのアリオスの顔をじっくりと見つめる
もしかして、怒ってる?
寝ぼけていて気が付かなかったけれど、明らかに不機嫌そうな顔
怒ってる事は分かるんだけど、何に怒っているのかが、解らない
寝ちゃったことに……じゃないよね?
「あの、アリオス……」
恐る恐るかけた声に、アリオスは諦めた様なため息をついた
「疲れてるんなら休んでろ」
少し乱暴な言葉
言われた内容を頭の中で反芻して、アンジェリークは、柔らかな笑みを浮かべる
心配してくれたんだ
「なに、にやついてんだ」
「ありがとう」
重なった言葉に、アリオスがふかーいため息をついた

『倒れる前に、休みにしろ』
別れ際のアリオスの言葉に微笑んで、背を向ける
心配してくれてるのは嬉しいけれど
休んでる暇なんてないんだよ

約束の地の木陰
いつものようにアンジェリークを見送っていたアリオスが不意に姿を消した

「ダメだよ、アンジェは今日はお休みの日」
「…レイチェル?」
翌朝、いつもの様に今日の予定を話そうとしたとたん、レイチェルが真剣な顔で、止める
「良い?今日はアンジェは休まないとダメなんだからね」
レイチェルは、アンジェリークの手から予定票を取り上げながら、尚も繰り返す
「今日はお休みの日じゃないよ?」
「んーー、今日は、私と一緒に街に行く、決定ね?」
アンジェリークの言葉を無視し、レイチェルは勝手に今日の予定……
それも遊びに行く予定を立ててしまう
「それじゃあ、行こうか」
「ちょっと!レイチェル」
強引に手を引くレイチェルへ、抗議の声を上げ、手を振り払う
「………………」
レイチェルの真剣な眼差しの中、数分間沈黙が続いた
「たまには息抜きをしないとダメだよ」
そう言って、レイチェルが今度はそっと手を握った

「それじゃあアンジェ、明日からまたがんばろうね」
さんざん遊んだ夜
部屋の前でレイチェルが別れを告げる
「うん、そうね」
さんざん歩いた後の心地よい疲れ
「これから何かしようなんてしたら承知しないからね」
「うん、解ってる」
それじゃあ、おやすみ
の声と共に、扉が閉じようとする
「あっ」
気がついたら閉まろうとする扉を止めていた
「ありがとう」
不思議そうな顔をしたレイチェルへ、小さく告げたお礼に、彼女は明るい笑顔を見せた

灯りの落ちた部屋の中
ベットにもぐり込んで、心配してくれた人々へ
アンジェリークは小さな感謝の言葉を囁いた
 
 

END
 
おまけへ
 
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送