休息という名の息抜き
おまけ


 
アンジェリークと会ったその日の夜
アリオスは、アルカディアの大地の中心に建つ屋敷へと向かった
柔らかな空間と、警備の人影の見えない屋敷
ここは、女王と補佐官の住居だ
無防備な屋敷の中をアリオスは目的地に向かって足早に歩いた
やがて、ひとつの扉の前で足を止める
部屋の中で動く人の気配
まだ眠っちゃいないみたいだな
中の人物がまだ起きている事を確認し、アリオスは扉をノックした

静かなノックの音に、首を傾げながら、扉を開いたレイチェルは、そこに立っていた人物の顔を見てうかつにも硬直してしまった
「話が有る」
静かに告げる声に押される様に、部屋の中に招き入れ
当然の様に椅子に腰をおろす姿を眼にし、ようやく我に返る
「それで、話って何?」
聞きたい事は山の様にあるけれど、わざわざ訪ねて来る程の話だからきっと重要な事
小さく深呼吸をして、心を落ち着け、アリオスと向かい合う位置へと腰を下ろした
「アンジェリークの事だ」
満足そうな笑みを見せて、アリオスが早速用件を切り出す
やっぱりね
きっとアンジェの事だろうとは思ってたんだ
「あの子に何かあった?」
声を潜め、姿勢を正し、アリオスの方へと身を乗り出す
そしてそれから、アンジェリークには秘密の相談が始まった

「あの子ってば、まじめ過ぎるんだよね」
力のこもった言葉に、アリオスは深く頷き同感する
「加減ってモノを知らないんだよな」
アリオスの言葉にレイチェルが何度も頷く
二人で文句と言う名の心配を繰り返した後、同時にため息をつく
「とりあえず、今回は任せておいてよ、明日は強引にでも休ませるから」
部屋から出さないようにするわ
気合いを入れるレイチェルの言葉に同意しかけ、ふとアリオスの脳裏を疑問がよぎる
「……それで、おとなしくしてるか?」
「えー?そりゃ、閉じこめられたら…………」
レイチェルの脳裏に学習に励むアンジェリークの様子が浮かぶ
「…………してないか」
レイチェルの乾いた笑いが部屋の中に響く
「何もできないように見張ってるのが一番なんだろうけど……」
呟きながら、レイチェルはそっとアリオスを伺う
あなたがやってくれれば安心なんだけどね
アリオスは、向けられるレイチェルの視線を故意に無視する
「閉じこめて見張ってるって訳には行かないだろう」
それじゃあ、休息にはほど遠い
「それはそうなんだけどさ……」
「どうせなら、逆に引きずりまわすってのはどうだ?」
「何それ?」
アリオスが語る提案に、レイチェルは同意した

アンジェリークが、余計な事をする暇も無く遊び続けた忙しい一日が終わった
レイチェルは、自室の扉を開け、一息つこうとして、その場で脱力した
「……なんでこんな所にいるのよ」
灯りのついた部屋の中央、テーブルの側にアリオスが立っている
「ねぎらってやろうと思ってな」
不適な笑みを浮かべたアリオスは、勝手に進入した事に対してなんとも思っていないらしい
「それはありがたいけど、年頃の女の子の部屋に勝手に入ってくるってのは止めてよね」
本当なら、怒鳴りつけて叩き出すんだけど、疲れているからかそんな事をする気にもなれず黙って椅子に座る
………私にとって無害っていうのも大きいかも知れないけどね
そっと心の中で言い訳をする
不意にテーブルの上に暖かな湯気を立てているカップが置かれる
「お疲れさん」
顔を上げた先に、共犯者の笑みを浮かべたアリオスの姿
自然にレイチェルの顔に笑みが浮かぶ
「そんなに疲れたーってことはなかったけどね」
温かいカップに手を伸ばしながら、レイチェルは、今日のアンジェリークの様子を語り始めた

決して長くも、短くも無い時間
話が僅かにとぎれた所でアリオスは立ち上がった
「それじゃあ、そろそろ俺は帰るぜ」
「あれ、もういいの?」
もっとアンジェの話を聞きたいかと思ったのに
呟くレイチェルへ背を向け、テラスへと続く窓を開け放つ
「あんたも疲れてるだろ、今日はゆっくりと休むんだな」
そして、アリオスは、夜の闇へと身を躍らせた

「……まいったなぁ、もぉ」
夜の闇へと消えたアリオスを見送って、レイチェルは静かに窓を閉じる
「しょうがない、今日は警告通り寝るか」
手早く着替えをすませ、ベッドへと潜り込む
……アンジェみたいに、言いつけられたら困るもんね
きっと心配して、大騒ぎする親友の様子を思い浮かべ、レイチェルは素直に目を閉じた

『じゃないとアンジェみいになるぜ?』
立ち去り際に呟いたアリオスの声
アンジェリークだけではなく、レイチェルもまた、気を抜く事のできない状況に、疲れがたまってる事を、アリオスは気づいていた
 
 

END
 
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