ガラス細工


 
透き通ったガラス細工の数々
この辺一帯を覆う不思議な空間
吹き渡る風が薄いガラスに触れ微かな音を奏でる
優しい音、柔らかい音、涼しげで堅く響く音
同じガラスという素材
けれど、訪れる人々の目を眩ませるガラスの森には、全く同じモノは何一つとして存在しない
そして…………
森を愛する人達の手によって
森を作り上げる職人達の手によって
森のガラス達は、季節によって変わっていく
それなら、以前この森の住人だったガラス達は?
この話を聞いた時に感じたほんの些細な疑問

透明なガラスが日の光を反射して、虹色に輝いている
華やかに鮮やかにきらきらと輝くこの光景を見るのが楽しみの一つ
ガラスで出来た森の木々
そして、ここに生活するガラスの動物達
いつもの様に、うきうきした足取りで森の奧へと進み
……あれ?
感じたのは違和感
「…何か、変?」
途惑いの中で呟いた言葉を声に出した事でさらに深まる違和感
アンジェリークは、じっと辺りに視線を向ける
いつも通りに光を反射しているガラス細工達
柔らかで、優しくて、綺麗な光景
草や木々の合間に見え隠れする動物達……
…………え?
あそこに居た筈の子が居ない?
先日までは確かに居たはずの所に見当たらない動物達がいる
「ええっ!?」
思わず口から飛び出す声
なんで?気のせい、じゃないよね?
思わず走り寄って、触れた掌にガラスの感触がひんやりと伝わってきた

たまたま空いた時間
そこを通ったのは偶然だった
玻璃の森へと続く町外れで、幾人かの人達が慎重な手つきで荷物を運んでいた
興味が湧いたのも偶然
「よう、大変そうだな」
声を掛けたのは……まぁ当然ってところか
なるべく普通の奴らにも判る様に気配を殺さずに近づいた成果か、さほど驚かせる事無く近づく事が出来た
そして、こちらを振り返った彼等の手の中で光を反射させるガラスの固まり
「ええ、そうですね」
口では大変な事を背定しながら、にこにこと楽しそうな顔
……盗んだって訳じゃないみたいだな
もっとも、こんな昼日中から、こんなモノを盗むような奴がいるはずもないしな
「手伝おうか?」
見た目よりも重量があるのだろう、話しをする間も何度も抱え直すそれに手を伸ばした
腕に掛かる予想通りの重み
「あ……」
割れやすいガラス細工と考えれば、不自然に力が入るのも道理かも知れない
不安そうに見つめて居た目が、しっかりと抱え上げた両腕を映し、安心したように口を綻ばせる
「では、お願いします」
改めて小さなガラス細工を抱えた男が、小さな一台の車へと歩き出した

「アリオス!」
悲鳴の様な声を上げて、アンジェリークが飛び込んできたのは先ほどの事
「居ないのっ、居なくなっちゃったの!」
必死の形相で叫んだ言葉に、アリオスはその一瞬だけ僅かに顔色を変えた
とりあえず落ち着かせて聞き出した内容に、アリオスは深くため息をついた
「……やる」
そして、差し出した手の中にはガラス細工の小さな子リスが一つ
「ええっ!?」
驚きに目を見張ったアンジェリークがくるくると視線を動かす様子に、アリオスは声を立てて笑った

ガラスの森の動物の数が減ったのは、丁度入れ替える為に持ち去った後の事だったから
今森では、その後すぐに持ち込まれた新しい動物達が新たな住人として生活を始めている
「今日からここが貴方の家よ?」
アンジェリークは自室の窓辺にそっとガラスのリスを置いた
窓の外から差し込む光を反射して、虹色の輝きを見せる
そして、古い住人達は
望まれた人々への贈り物となる
 
 

END
 
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送