来訪者


 
いつもと同じ道
いつもと同じ時間
いつもと同じ足取りで
いつもと変わらない、意識する事も無い時間が過ぎる筈だった
けれど、不意の出来事に、足下へ視線を止めたまま動けずにいる
気付かない事にして通り過ぎてしまえば、いつもと変わらず過ごせたのかもしれない
だが、それも今となっては遅い
随分時間が経つ頃、ようやく諦めたようなため息を吐いた
―――それが始まり

部屋を出た後、辺りを慎重に伺って、どきどきしながらいつもの待ち合わせ場所へ急ぐ
本当は、こんな事はしなくても良いのかもしれないけれど
アリオスの希望だし……
なんて言い訳をしながら急ぐ道
私だって、陛下だけで無くアリオスの存在が他の方々に知られている事は解ってる
―――解らされるっていうのが本当は正しいけれど
だからこんな態度を取る必要は無いはずなんだけれど……
「なんとなく、ね」
理由にならない理由を呟いて、いつと同じ様に約束の地へ向かった

いつのまにか慣例になったこの場所での待ち合わせ
いつもと同じ木の根本に座り込みながら、時折押さえ込む様にして手を動かす
もぞもぞと動く小さな塊
身を捩り、手の隙間から顔を覗かせる
「少しはじっとしてろ」
力無く吐き出した言葉に、誰かに似た仕草でこちらを見上げる
「……何してるの?」
まるでタイミングを計った様にかけられた声
不思議そうに近づいてくる姿が手の中のこいつと変わらなく見えて、笑いがこみ上げてきた

あれ?
木の根本に座り込んだアリオスの姿に、いつもと同じように声をかけようとして、違和感を感じた
座ったままの姿は、良くある事だから珍しくは無い
此処まで来ても、声を掛ける迄知らない振りしているのはいつもの事だから、こちらを見ないのも可笑しくなんてない
何故か感じる違和感に首を傾げながら、声をかけずにゆっくりと近づく
座ったままのアリオスの手がゆっくりと動いている
相変わらず視線は下を向いたままで………
「少しはじっとしてろ」
楽しそうな小さな声
「……何してるの?」
不思議に思ってアリオスを覗き込んだら、突然大笑いされた

「可愛い」
じっと顔を見上げるふわふわの白い猫
こっちを見上げていたのはほんの少しの時間で、すぐにリボンにじゃれ始める
「この子どうするの?」
押し付けるようにして渡された猫
何となく解る気がするけど…………
あんまり面白いおもちゃじゃなかったのか、リボンからすぐに興味を無くして、あっという間に私の膝からアリオスの方へと移ってしまう
慌てた様にアリオスが手を伸ばすけれど
多分そんな事をしなくても大丈夫
わざとらしい位深いため息
うん、言いたい事は解る気がするけどね
「ちゃんと面倒見てあげないとダメだよ」
アリオスの膝の上で丸くなった子に手を伸ばす
小さくだけど、気持ち良さそうに喉を鳴らしている
アリオスが良いっていってるんだもの、この子を預かるなんて出来ないよ
くすくす笑いながら告げれば、アリオスは諦めた様に空を仰いだ

火の爆ぜる音、炎の匂い
冷え込んだ夕暮れ時に暖炉の炎が揺らぎ燃えている
「お前、そんな所に居ると焦げるぞ」
暖炉の前の特等席に陣取った白い毛皮
呆れながら声を掛け、すぐ側をすり抜ける
……と
突然左足に加わった重み
「………………」
ホールドする様に伸ばされた両手
目が合えば、自慢げな声で一声鳴いてみせた

いつもの時間、いつもの場所、いつもと同じ様に歩くその頭上から、1匹の猫が降ってきた
足を止め、目が合ったのが運の尽きらしく
当たり前の顔をして、住んでいる
 
 
 

END
 
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