雨宿り


 
遠く聞こえる雨音にアリオスはふと顔を上げる
葉を打つ雨音が徐々に近づき
空から落ちる雨の糸がはっきりと目に映る
出かけようとしていた手を止め
アリオスは空を見上げる
これは、当分止みそうもないな
そして、近くで雨に濡れた人の気配
―――ついてねーな
それは知った人間のもので、アリオスは深くため息をつく
この辺りに雨宿り出来そうな所は他には無い
突然の雨に困った奴が、雨をしのげる場所を探すのは必然で
居留守でも使うか……
そんな考えが脳裏をよぎった

予告無く突然降り出した雨にヴィクトールは困惑したように空を見上げた
今日雨が降るという話は、研究所からも女王陛下からも聞いてはいない
告げるのを忘れただけか?
それとも、予測がつかなかったと言うことか?
思い浮かんだ事柄に、ヴィクトールは表情を引き締める
忘れただけならば良いが
もし、予測することが出来なかったとすると…………
いや、まだ大丈夫だ
ヴィクトールは首を振り、嫌な考えを脳裏から追い払う
雨が次第に強く降る
身体を激しく叩く雨粒に
ヴィクトールは、雨をしのげる場所を探し歩き始めた

「突っ立ってねーで、入ったらどうだ?」
開いた扉の向こう、呆然とした面持ちで立ちつくすヴィクトールへアリオスはタオルを投げつけた
「少しは水気を拭いて来いよ」
「あ、ああ……」
反射的に受け取ったタオルを握りしめたまま、ヴィクトールは、まじまじとアリオスを見つめ
信じられないとでも言うように、ゆるく首を振っている
玄関の扉は開かれたまま、幸いヴィクトールの身体にふさがれて、雨が中まで入ってくる事は無いが、
まぁ、こいつなら風邪を引く心配は無いだろうが……
「さっさと入ったらどうだ?」
呆れたように声をかけ、アリオスは暖炉へと薪を投げ込んだ

「……ここに住んでいるのか?」
雨でずぶぬれになった身体を
『邪魔だ』
と風呂にたたき込まれ
水を滴らせていた服は取り上げられ、暖炉の前で乾かされている
そして、アリオスに渡されたアルコールを飲みながら身体を暖めている
「さぁな」
にやりと笑って答える
が、この状況でここに住んでいないと言われても信じる者はいないだろう
つまり、誰にも言うなという事だろう
確かに、近頃“アリオス探索隊”なるものが出来ているとは聞いている
「……知らない事にしておく」
俺の言葉を聞き、アリオスが酒瓶を滑らせて寄越した

激しい雨が上がり、雨宿りを終え再び森の中へと足を踏み込む
『嫌な気配は感じないぜ』
さりげなく意見を求めた俺にさらりと返された返事
全く、頼りになる奴だ
ヴィクトールの顔に苦笑めいた笑みが浮かんだ
 

 

END
 
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