約束


 
本当に驚いた時には声も出ない
ずっと昔聞いた話
聞いた時はそんな筈ないってそう思っていたんだけど
本当に、本当に、吃驚しすぎると声が出ないどころか体まで動かないんだって事
自分自身で体験しちゃった

「……約束だからね」
念押す僕の言葉に、アリオスがやれやれって感じでため息をつく
彼の口から零れるからかいの言葉
「アリオスっ!」
抗議の声にさえも笑みを浮かべて、僕の頭を乱暴に掻き回す
幾ら言っても治してくれなかった態度、だけど僕は本気で怒ってなんかいなかった
柔らかくて、優しい時間
こんな事言ったらきっとまたからかわれるんだろうけど、アリオスと居ると安心したんだ
夢の中の僕が、楽しそうに話をしている
ずっと……ううんそんなに遠く無い過去に起きた出来事を、近頃良く夢に見る

アルカディアの大地に新しく広がった森の中を
メルは軽い足取りで歩いていた
「うん、ここも大丈夫だね」
他の人よりも様々な気配を敏感に感じる事が出来るため、メルは自主的に新しく開けた場所へと足を踏み入れる
危険だって、止められてはいるけど、何か手がかりがあるかも知れないし
それに、霧が晴れた場所は、聖なる力が降り注いだ場所だから、よっぽどの事が無いと大丈夫だと思うんだ
…………だ、大丈夫だよね……
感じ取れるのは、包み込むような気配と、マルセル様の力だろうか?緑が育む豊かさ
うん、ちゃんとした力しか感じられないもの、問題無いよね
弱気に成りそうな心を落ち着かせながら、脇目も振らず森の奧へと歩いていった

霧の中の様子を探っていたアリオスがふと、背後に視線を流す
遠くに感じた見知った気配
…………?
一瞬の感覚に、再び霧の内部を探ろうとしたアリオスの邪魔をするかの様に感じられる気配
……………………
「……なにやってんだ」
気配の持ち主の泣き出しそうな感情に気付き、盛大なため息が漏れる
ったく、手間の掛かる……
気の進まない様子でアリオスは彼の元へと歩き出した

「おい、チビ」
背後から聞こえた声に慌てて振り返り
「どこに行くつもりだ?」
そこに立つ人物の姿を見て、メルは呆然と立ちつくす
「でっかい形して、泣きべそかいてんじゃねーよ」
今朝夢で見たばかりの人物
最近、オリヴィエ様が捜索を頼みに来た人
なかなか会えないって、聞いていたのに
「森の中で迷子になるなんて、進歩が無い奴だな?」
呆れたような口調、懐かしい声
……あ、本当に目の色が違うんだ
真っ白になった頭の中に浮かんだのはそんな事
「ぼけっとしてると、置いていくぞ」
言うだけ言って背を向けて歩き出すアリオスの姿
「……アリオスっ!」
どうしてか、現実の出来事だっていう実感が湧いてきて
嬉しくなって、凄い勢いで抱きついた

「あ、ここは知ってる」
森を抜け出して、ようやく安堵の声を上げる
自分で思っていたよりも随分遠くまで行っていたみたいで、ここに来るまで結構長い時間が掛かった
「そりゃ、良かったな」
疲れたようなアリオスの声
あはは、ずっとおしゃべりにつきあわせちゃったもんね
でも、アリオスだって悪いんだよ、僕だって話したい事が一杯あったんだから
思わず笑っちゃった僕の様子にアリオスはほんの一瞬だけ、機嫌を損ねたみたいな顔をして、すぐに俯いて手で顔を覆い隠した
口も聞きたくない、みたいな態度だけど違うよね?
だって、楽しそうだもん
「今日はありがとう、また今度話をしようね?」
だから僕は、次の約束を一方的に取り付けて、アリオスの返事を待たないで走り出す

今朝見た夢
あの時も、道に迷って困っていた所を助けてくれたんだよね
あの時の約束、アリオスは忘れちゃったかな?
迷子になったら迎えに来てくれるって言ったんだよ

 

END
 
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