捜し物


 
何気なく見落としている事
何を見落としていたのか気が付けば
探し出すのは、こんなにも簡単な事

果てなく思える程広い草原の中に足を踏み入れたのは必然
ですが、この広い草原の奧深くまで足を踏み入れたのは、偶然だったのかもしれません
その結果の再会は、偶然としか言いようが無くて
人は本当に驚くと声も出ない、という言葉を身を持って体験しました
私は、彼の気配どころか、人の気配にさえも気付かなかったのですから

滅多に人が踏み込まない草原の奥地に居る人影を発見するのは容易かった
腰をかがめ、立ち上がり、周囲を見渡し、少し進む
そんな動作を繰り返す人影が、何かを探しているのは一目瞭然
「……何やってんだ、あいつは?」
独特の気配と珍しい色彩にその正体を知ったアリオスは、首をひねりながらその動きを追う
落とし物、って訳は無いよな
落とすためには、以前にも此処まで足を踏み入れなければならない
だが、こんな所にまで足を踏み入れる人物はある一定の職についた人間しか見た事が無い
…………………
アリオスの視界には楽しそうに草原を行くリュミエールの姿が映っていた

アルカディアの片隅に広がる草原に珍しい香草があるという話を教えてくれたのは、最近親しくなった、店の店主
『だけど、必ず取れるとは限らないからな』
そう言った店主の言葉通り、なかなか目的のモノを見つける事が出来ず、次第に奧の方へと足を運んでいた
「やはり、そう簡単に見つかるモノでは無いのですね」
少しばかり残念に思いながら、腰を伸ばしたリュミエールの眼に映ったのは、果てしないとも思える草原の緑
………………
ぐるりと辺りを見回した、リュミエールの眼に、遠く緑の森が見える
「……思ったよりも遠くまできていたようですね」
見慣れた風景と異なった景色
視界が開けたこの場所では、道に迷うという事はきっと無い
けれど……
赤く染まった辺りの風景が、大きく西へ傾いた太陽が、日暮れが近い事を教えている
「日が暮れる前に、戻れると良いのですが……」
アルカディアの大地は安全とは言い難く、重々注意するように通達を受けている
最近夜の闇に紛れて嫌な気配を感じる事も多い
リュミエールは表情を改めると、街道へと戻る為に歩き出した

夜の空の下を人影が1つ暢気に歩いていく
偶然にも晴れ渡った空は降る様に星が出ていて、月と共に明るく草原を照らしている
ここは、昼の間は危険じゃねーけどな……
アリオスはのんびりとした彼の様子に、深くため息を吐く
力を注がれる事によってこの場所は安定を取り戻している
だがそれとは逆に力が注がれる程、反発する力も大きくなってきている
簡単に言えば嫌な感じがする
……頼むから何も起きない内にさっさと帰ってくれよ……
祈る様な気持ちで願うアリオスの視界の先、リュミエールが立ち止まった

暗い森の奧から獣の声が聞こえる
どこか悲しげな鳴き声にリュミエールはふと足を止める
安らぎは、私の領分ではありませんけれど、少しでも安心して貰えたら良いのですが……
そっと、眼を閉じ、不安に鳴く動物にサクリアを送る
ふわり、と放出された力の流れ
……?
溢れ出るままに任せた力が、何かの存在を感じ取った
それは、初めて感じる様で、それでいて、身近過ぎる程にも思える不思議な気配
サクリアの放出を止め、リュミエールは辺りの気配へと意識を向ける
……どういうことでしょう?
先ほど確かにあったと感じた気配を感じる事が出来ない
まるで、元からあったモノに融けて無くなってしまったような………
…融けて無くなる?
ふと浮かんだ考えがどこか気になる
考えながら上げた視界に映る満天の星、そして………
………まさか?

明るく照らす人工的な灯りが見える
此処まで何事も起きなかった事に対して、アリオスが安堵の息を吐いたその瞬間
「有り難うございました」
素早く振り帰り、まっすぐにこちらを見たリュミエールの声が聞こえた
……………なんだって?
「その辺りにいらっしゃるのでしょう?」
楽しげな笑みを浮かべるリュミエールの顔が、月明かりに照らし出される
「付き合っていただいて、有り難うございました」
その辺りと言いながら、視線はまっすぐにこちらに向かっている
「ついでですから、ご一緒にお茶でもいかがですか?」
………気付かれてたって事か
確認する様に、言葉を句切って呼ばれた自分の名前に、アリオスは天を仰ぎしかたなく姿を現した

良く考えれば、アリオスの力はアルカディアを覆っているのですから
彼の気配は身近過ぎて、彼本人を見落としているのでしょう
彼を見つけられないのは
ただ、それだけの事だったのですね

 

END
 
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