お使い


 
近頃周りが騒がしくなってきている
時折、顔見知りの住人が、興味深げに聞いてきやがる
「…………ったく」
俺が何かしたんじゃないかって、心配する奴がいるのは、まあいい
だが……
彼奴等がどういう説明してんのか、彼奴等の同類と思う奴らが出てきたってのは勘弁して欲しい
あんな派手な一行の中に混じるつもりはさらさらねーし
知り合った奴等の態度が変にぎこちなくなるのも気にくわねえ
…………
まさか、とは思うが
わざとやってんじゃねーだろうな?
日に日に派手になる彼等の行動に、アリオスは疲れたようなため息を付いた

なんだって、俺がお使いなんかしなきゃなんねーんだよ
口の中で文句を繰り広げながら、ゼフェルは街はずれの工房へと向かっていた
研究所で使いたい機械を作って欲しいっていうのは別に良い
『すみませんが、工房迄取りに向かってください』
けど、その為の備品やら何やら一纏めにして、直接工房から貰ってこいってのはどういう事だよ
「あいつ、最近ルヴァに似てきたんじゃないか?」
憎まれ口を叩きながら、肩でドアを押し開ける
軽快な音を立てて、鈴の音が響いた
「いらっしゃい」
穏やかな男の声にゼフェルが工房内へと視線を向ける
「………………」
見慣れた色彩が窓からの光を反射している
「何の用件かな?」
正面に備えられた小さなカウンターの奧から男が声を掛けてくるが、ゼフェルは硬直したように動かない
「……よぉ」
からかうような、面白がるような、独特の口調
「なんであんたが、こんなとこにいるんだよっ!」
我に返ったゼフェルは、目の前のアリオスに指をつきつけ怒鳴りつけた

頼まれた仕事をこなし、依頼主が確認している最中近づいてくる気配を感じた
目的地は此処じゃないかもしれない
なんて、気楽な事を考えられる状況ならよかったんだが、こんな辺鄙な場所にはこの工房位しか、彼奴が用のある様な場所は無い
……ま、他にうるせえのがいないだけましか
まさか、この状況で逃げる訳にもいかねえ
あいつは気付いてなさそうだが、ここの主に何を言われるかわかんねぇからな
アリオスは、覚悟を決め扉の方へと身体を向ける
それと同じタイミングで、軽やかな音を立てて扉が開いた
「いらっしゃい」
主が掛けた声に、ゼフェルが顔を上げる
工房内へと視線を向けて、その視線が俺の所で止まった

とっさに口に出たゼフェルの疑問に返ってきたのは
『用があるからだろ』
馬鹿にしてるのかと言いたくなるような、当然の答え
『そういう意味じゃねーだろっ』
思わず詰め寄れば、わけのわかんねー答えが返ってくる
ただ驚いて、言葉が出ただけだから、答えが返らなくたってどうでもいい
それよりも工房主に“研究院”で頼んだ荷物を取りに来たと告げたとたん
「もうなんだっていいから、手伝えよっ」
工房の奧から現れた荷物の山に、ゼフェルが悲鳴を上げる
こんな量どうやって持ってこいっていうんだよ
どうみたって、人1人で運べる量じゃねえ
「お前の仕事だろ」
用事を済ませたらしいアリオスが帰ろうとするのを扉を塞いで邪魔をする
「いやー、助かったよ、注文は次々くるものの引き取りには来てくれなくてね」
男がにこにこと人の良さそうな笑みを浮かべている
「………手伝えよ」
貴重な労働力をみすみす逃がすかよ
扉の前で、暫くにらみ合いが続く
「あんな量俺1人で運べる訳がねえだろっ」
だから、手伝え
見下ろしてくるアリオスを承知するまで見続けてやる
「…………」
「…………」
無言の戦いが数分間
「……ったく、しかたねえなぁ」
しかた無さそうに、アリオスが呟いた

「落とすんじゃねーぞ」
「誰に言ってんだよ」
賑やかな声が辺りに響く
工房の外まで見送りに出た主が、穏やかな笑みを浮かべて、微笑ましげに2人の姿を見送っていた

 

END
 
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