迷子


 
人々の暮らしと大地の安定
それを自分の目で確認する為に行っている定期的な見回り
………なんて言っても僕が自分の目で確認したところで、解る事はそんなに無いですけれど、少しは皆さんの役に立てるかもしれませんから………
閉ざされた小さな世界、そうは言っても数える程の人数では日々拡大していく世界の隅々を把握する事はなかなか大変な作業になっていた

いつもの様に町中を歩き、ティムカは話に耳を傾けた
暮らしの中で生じた事
困った事や嬉しい事
相談事や報告
人々の話を一通り聞いて、何も問題が起きていないことを確認してようやく一安心する
彼等に別れを告げてティムカは町外れへと足を伸ばした
小さな町へと続く草原沿いの小道
その道の端で俯いて立ちつくす小さな子供の姿
寂しげなその様子が気になって、その子供へと声を掛けた

泣きわめく子供の声と、必至でなだめすかす声
声が聞こえ始めてから数分
道の真ん中で立ちつくす影が2つ
2つの影の片方は良く知っている奴で、自分でも今更だとは思うが出来れば関わり合いになりたくない奴等の一人
お子様軍団の中でも立場が上なのか、他とは比べものにならない程しっかりしていた
懸命になだめる姿もそれなりに様になってる………かもしれねぇ
『弟が居るんです』
旅の途中、小さな子供を見て嬉しそうに言った言葉
………まぁ、あいつなら大丈夫だろう
どうせ急いでいる訳でもねぇ
遠目に2つの影を見つめながら、アリオスはのんびりと空を仰いだ

立ちつくしていた小さな子はどうやら迷子だったみたいで、声を掛けたら突然泣き出した
必至で泣くのをなだめ、彼の家を教えて貰う
泣きながら話してくれる言葉は時々聞き取れなくて、幾度も聞き返して繋ぎ合わせた情報
その結果どうにか解ったのはご両親の名前と家族構成
家があるのは小さな水辺のほとりで、周囲には他に2、3件家があるということ
情報としてはきっとこれで充分なはずなんだけれど、困ったことに僕には言われた場所に該当する場所の事が思い浮かばない
どうしましょうか?
空は沈み行く日の光で朱く染まっていて、東の空には星が見え始めている
早く家族の元へ送り届けたいけれど、場所を知らない自分にはそれは無理な話で、まずは場所を知っている人を探さなければならない
街に戻るべきですよね
「大丈夫、ちゃんとお家まで送り届けますから」
そう言って手を伸ばしたのとほぼ同時に
「知らねえ場所にどうやって届けるんだよ」
頭上から聞こえた声の主が、男の子の体を抱き上げた

次第に日が暮れていく
様子からどうも迷子に引っかかったらしい事は良く分かった
そして、困惑したようなティムカの表情
安心させようとしきりに声を言葉を掛けているが、ああいうガキってのは昔から敏感だ
それほど出歩く事も無い奴だ、きっと告げられた場所が解らなかったんだろう
何処か不安そうな様子を感じ取って、
………泣きそうじゃないか
どうも最近癖になりそうなため息を一つ
仕方ねぇなぁ
足早に2人の元へと身体を運ぶ
「大丈夫、ちゃんとお家まで送り届けますから」
―――ったく、俺も大概お人好しだぜ
「知らねえ場所にどうやって届けるんだよ」
今にも泣きだそうとしていた子供を勢い良く抱え上げた

日も暮れた暗い夜道
さっきまで泣き出しそうだった男の子はご機嫌でアリオスにまとわりついている
邪魔だとか様々に悪態をつきながら、結局相手をしている姿
ティムカは、アリオスの隣を歩きながら小さく笑いをこらえる
自分達と会うことを拒んでいた筈の人
嫌われている訳では無い事は知っているけれど、ティムカ自身とも勿論顔を合わせたくは無かったはず
いつから見ていたのかは知らないけれど、困っていたらそれを察して手を差し伸べて来た
その上………
突然のアリオスの出現に理解が追いつかなくて呆然と歩き出したアリオスを見送りそうになったティムカに掛けられた言葉を思い出て、思わず吹き出してしまう
「………楽しそうだな」
不機嫌そうなアリオスが睨み付けてくる
「ええ、アリオスにも会えましたから」
けれど本気で不機嫌では無いことが解っているから、ティムカは笑顔を返した

まさか此処で会う何て思ってもみなかった人の出現に歩き出すその姿を立ちつくして見送ってしまった
「おい、ぼけっとしてねえ出さっさと来い」
ぶっきらぼうな言葉に我に返ったティムカが見たのは、数歩先で振り返り自分を待つアリオスの姿
「まさか、俺一人に押し付ける気じゃねぇだろうな?」
戸惑うティムカの耳に続けて飛び込む言葉の数々
「お前が拾ったんなら最後まで責任持って面倒をみろよ」
苛立たしげに聞こえた舌打ちの音
「―――はいっ」
けれどそれは照れ隠しで
つまりその言葉の意味は一緒に来いって事
ティムカは笑顔でアリオスの元へと急いだ

暗い夜道に月の光
迷子の子供を無事に家まで送り届けた帰り道
1人どこかへ帰ろうとする腕を掴んで、わがままを言って屋敷まで送り届けて貰う
道すがら色んな事を話して、気がつけば話が弾んでいた
 
 
 

END
 
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送