警告


 
いつもの様に、街の中を巡る
俺に与えられた仕事は、警備の仕事
人々の間にトラブルが起きたりしないか、悪意ある存在が突然襲ってきたりしないか注意をはらって見回っている
始めて霊震が起きた直後は、緊張と共に辺りを見ていたけれど、近頃はその緊張も薄れてきた
慣れたって言うのもあるんだろうけれど………
閉ざされた世界を覆うように包んでいるアンジェや陛下の気配
そして、比較的早い段階に深い霧から解放された中心地付近は嫌な気配が入り込む隙なんて無いほどに俺達守護聖の力が満ちている
「ここは大丈夫だな」
誰かの力が突出している事も無く、全体的にバランス良く力が行き渡っていると思う
たぶん、此処が突然危険にさらされるって言うことは無いと思う
それよりも、危険なのは―――
ランディの視線が、銀の大樹の方角へと向かう
今いる場所からは、大樹の姿は見えない
けれど、何故かハッキリと視る事の出来る姿
銀の大樹の付近に感じる嫌な空気
まだしっかりと霧が取り払われて居ない場所よりも、もっと不気味な気配を感じる場所
『危険だから、不用意に近づくんじゃない』
そう言い渡されたのはつい先日の事だ
嫌な感じもするし、確かに危険なのかも知れない
だけど………
俺達よりも、街の人達の方が危険だと思う
彼等は時折、銀の大樹の近くまで足を運んでいる
今までが大丈夫だからと行って、これらも大丈夫だという保証は無い
「一度確かめた方が良いかもな」
気が付けば、厳しい表情で、銀の大樹を見つめていた

居場所を無くした力が徐々に集まっている
次々と解放されて行く場所と溢れていく力
追い払われ、追いつめられた力が1つの場所へと集まっていく
―――拙いな
闇が蠢いている
この場所だけは渡さないとでも言うように、凝り固まっていく闇の力
―――早めに手を打った方が良いぜ?
崩れていく力のバランスを感じながら、アリオスは銀の大樹へと視線を向けた

深い森の中へと足を踏み入れる
銀の大樹へと続く近道
いつもならば、深い森の中は避けて通るけれど、どうしてか今日はこの場所を通らなければならない様な気がしていた
水水しい草を踏みしめる
足の裏で感じる柔らかな感触
生い茂った木々の間から光が射し込んでくる
穏やかで平穏な世界、そんな錯覚を当たり前の様に感じる
銀の大樹から比較的近いはずなのに嫌な気配を全く感じない
心落ち着く不思議な場所
緩い風が吹き抜ける
何処か生ぬるく、居心地の悪い風
銀の大樹から吹き寄せる風
「やっぱりあそこは危険だ」
睨み付けるように遠くを見据えた視界の隅に人影が映った

簡略化された地図に、書き込まれていく印
しばらくは放っておいても構わない場所
このままでも構わないけれど、できるなら手を加えた方が良い場所
早い内に手を打った方が良い場所
何がなんでもどうにかしなければならない場所
アリオスから次々と伝えられる情報は、聞き返す事も許してくれなくて、俺はただ必死でその言葉を記憶する
状況によって書き込まれる印の色は、どうにか変更して貰う事は出来たけれど、アリオスがつけくわえてくれる最も有効と思える手段は1つずつ俺が覚えて行くしかないみたいで………
正直、そろそろ限界
それにしても俺の感覚からすれば、問題があるのは銀の大樹くらいだったっていうのにアリオスに言わせれば、他に問題があるからあそこの状況が悪くなるって事らしい
思わずため息が零れる
「聞いてるのか?」
慌てて顔を上げれば、よく知った意地悪そうな笑みがある
「ああっ、ごめんっ」
聞いてなかったって正直に言えば呆れたとでも言い足そうな言葉が返ってくる、けれど………
良く考えればコレってなんか変じゃないか?
「俺が伝えるより、アリオスが直接話した方が良いんじゃないか!?」
森を通っている途中、『丁度良い』なんて言葉と共に掴まったけれど、良く考えてみればわざわざ俺を介する必要なんか無いよな
「俺、必死に覚えようとして損したよ」
そう言ったら、アリオスは不思議な顔をした

辺りが赤く染まる夕暮れ
腕を引っ張られるようにして歩く人影
遠く聞こえる言い合いが、何故か楽しげに聞こえた
 
 
 

END
 
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