情報


 
「わざわざご苦労さまです」
目の前に現れた客人に向かって、私はずいぶん間の抜けた挨拶をしたのだと思う
「………自分でもご苦労なことだと思うぜ」
疲れたようなアリオスの言葉がどうにも印象的でした

ランディを捕まえたつもりで捕まって
利用するつもりが、まぁ早い話が失敗した
彼奴は俺をオスカーかジュリアスの所まで引きずっていくつもりだったようだが、そんな所に連れて行かれるのは冗談じゃない。
だから適当なコトを言って、俺本人は研究院の方へ行くと逃げだそうとしたが、少しは知恵が付いてきたのか、結果としてここまで送り届けらる羽目になった。
「状況は予測出来るのですが、私の方でも丁度2、3貴方に聞きたいことがあります」
人払いがされた研究室の一室。
インスタントコーヒーをアリオスの前へと置きながら、エルンストは正面の椅子へと腰掛ける
「答えられるようなことならな」
「貴方なら間違いなく答えていただけると思いますが?」
牽制を込めて口にした言葉は、至極あっさりと否定された
「それではまずはこの映像をご覧ください」
淡々としたエルンストの言葉と共に、机の上にアルカディアの全景が映し出された。

幾度かの質問のやり取りを通して、机上の地図の様子がだいぶ変わってきている
研究院の方でデータに基づき、研究員達が導き出した詳細なデータ
守護聖様方の体感を元に造られたデータ
アンジェリークやレイチェルの言葉を元に造り出されたデータ
私は立場上その三者のデータの提供現場に居合わせるコトになる訳ですが………
「やはり我々のデータでは銀の大樹がもっとも警戒をするべき箇所という結論が出ているのですが、貴方の目からすると、銀の大樹には緊急性は感じられないというコトでよろしいのでしょうか?」
アリオスは研究院が集めた細やかな数値に目を走らせる
「いや、もっとも危ない場所っていう意見自体は賛成だぜ?」
そして、何かを探る様に辺りへと視線を彷徨わせ
「だが、何かが起きるとすれば最後だ」
無意識なのだろうか、幽かに息を吸い、吐き出し呼吸を整える
アリオスの右手の人差し指が軽く机を弾く
「では危険ではあるが、今現在は手を出さない方がよいと?」
「出さない方が良いってよりも、出すべきじゃないって辺りだが………」
アリオスの目に何か試すような色が浮かぶ
「意味の違いはわかるか?」
「ええ、ニュアンスとしては」
下手に手出しをすると危険性が高まるという辺りの解釈で問題ないでしょう
「それでは銀の大樹周辺は今は話題からはずします」
机上のデータから銀のサクリア周辺のモノを削除していく
残ったデータは基本的にアルカディアの育成が上手くいっているという証になる
「貴方の話ですと、霧の晴れた地点に所々吹きだまりの様な箇所が残っているという話でしたが………」
浮かび上がるデータは先日オスカー様より頂いたもの
研究院でも調べのつかなかった細やかなデータは、はっきりとは口にしなかったけれど今目の前に居る相手がもたらした物と見てまず間違いは無いはず
「そいつか………」
思った通り、アリオスは表示された地図に視線を流しただけでコレが何であるのは解ったようだ。
「基本的な状況はそいつと変わりは無いはずだ」
そういいながらも、危険地帯としてマークされている箇所の幾つを問題の無くなった箇所として数カ所指定する。
「他の細かい所は、さっきランディの奴に教えてやったからな、時期に誰かが報告にでも来るんじゃないか?」
今情報がいただけるならばその方が都合が良いのですが、どうやらそこまで親切にしてくれるつもりはないようですね
「それでは………」
指し示されたデータの中で一つ気になっていた箇所、その場所に対する対応を相談しようとしたそのとき
「………ちょっと待て………」
アリオスの視線が鋭く変わる
何かをとらえる為か気配が変わる
―――これは!?
反射的に向けた視界の中に、サクリアを検出する機械が偶然収まった
機械がはっきりとした反応を示している
「オスカーだな」
計器が指し示す相手は間違いなくアリオス
「………オスカー様、ですか?」
「ああ、彼奴が今ここを修正した」
アリオスの指先が指し示したのはまさに私が聞こうとした箇所
「………そうですか………」
私が気になってたほどですから、守護聖様方も注意を払ったということでしょう
………きっと私はそんな会話をアリオスとしたのだと思う
気が付けばアリオスは居なくなっていた
机の上に視線を移せば会話自体は続けられていたのか、データが増えている
「陛下に報告が必要ですね」
この場合陛下よりもアンジェリークとレイチェルに報告するべきでしょうか?
とっさに集めたデータは、脳裏を過ぎった事と全く同じ可能性を指し示している。
エルンストは手元に在るデータだけを手にし、女王陛下達の元へと急いだ

すっかり日が暮れた森の中をアリオスはいつもの様に歩いていた
「散々な1日だったぜ」
見上げた空の向こうに幽かに星が見える
辺りを包む気配はだいぶましになってきた
だが、寄せ集めの研究院では設備が悪いのか、それとも彼奴らにはセンスが無いのか、どうやらこれほどはっきりと感じ取れる気配に気づいていない事が多い
「ま、ここを脱出する間での付き合いだ、多少の事は我慢してやるか」
目についた吹きだまりを払いのけながら、アリオスはゆっくりと家路についた
 
 
 

END
 
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