ここに在る意義


 
時刻は深夜に程近い時間
夜の散歩へと出かけたのはただの気まぐれ

遠く星が見える
存在するはずのない星空
擬似的な空の光景
宇宙と宇宙の狭間にある閉鎖された空間
月も星も、昼に輝く太陽も、今この地にあるすべてはただの作り物だ
「偽りの空にも解るコトがあるのか?」
アリオスが問いかけた先に、夜空を視るクラヴィスの姿があった

無言の時間が過ぎている
会話のない会話
「………それで?」
長い時間が過ぎた後に、ただただ静かなだけの問いかけをされる
問いかけられたところで、言葉に詰まる
何を言えば良い?
何を問えば良い?
明らかにされた事柄に、実際の所俺の頭は混乱している
それと、強い困惑
許される筈がないという、数々の事実
常識が常識として通用しない
自分の存在そのものが打ち砕かれる感覚だ
それら全てをどんな言葉であらわせっていうんだ?
クラヴィスの視線がアリオスへと向けられる
「全ては事実だ。事実は事実のまま受け入れるしかない」
静かな声が耳を打つ
事実は事実?
だが、それが理解出来ない、納得することも出来ない
―――お前達の態度も、理解の範疇外だ
己へと向けられる好意的な感情、優しく柔らかな感情
偽りではないその態度に、ひどく不安になる
かつてお人好しの集団、そう評した彼等の言動は、それだけでは済まない確固とした態度が宿っている
わだかまっていた様々な感情、疑問、語る事の無い心の内が流れ出していく
闇が優しく身体を包む
「知っているからだろう」
端的な言葉が返る
「何を知っているというんだ」
「………お前の真実を………」
射抜く様に鋭い視線が、正面から合わされた

戸惑い、困惑、恐れ
アリオスの中にある感情の数々
多くの者が、自分という存在を理解していないように、彼もまた自分の事を知らずにいる
己の本質も、生き方も、本当の望みも、何もかもを理解せぬまま全てを否定した人生を送ったのがレヴィアスという男だった
レヴィアスという男の人生は終わった
それは誰もが知っている事実
「レヴィアスという男の人生は幕を引いた」
だが、アリオスだけが理解していない
命を終えるということ
新しく命を始めるということ
「そして、アリオスという男の人生が始まった」
その本質を歪める事無く、真実の望みを叶えることが、アリオスという人間が願った人生
それを実現する為に、お前という存在がここに在る
それが私達が知ること。
そして、幸いなことに私達は“アリオス”がどんな人間なのかを知っている
本人だけが知ることの出来なかった本質を理解している
「同じ魂を持つ別人は、幾つも視ている」
長い時の中で繰り返された生、、強い意志を持った強い魂、同じ魂が幾度か繰り返し現れる事実を幾度か目にした
先の生の記憶を取り戻した事は驚くことだが、そんな事もあるだろう
それが事実ならば、ただ事実を事実として理解し受け止める
私達がやるべき事はただそれだけだ
「………言うことが普通じゃねぇよな」
言葉に惑ったあげくアリオスが口にしたのは憎まれ口
「だが、それも事実だ………」
私達守護聖の中にも、アリオスの存在を受け入れることに戸惑いの在る者がいなかった訳ではない
だが、アリオスは“アリオス”で“レヴィアス”では無かった
それが全て、それで充分だ

―――その“力”に不満があるといならば、そなたを育んだ宇宙に文句を言うのだな………
勝手なことを言い置いて、アリオスの呼びかけも無視してクラヴィスが立ち去っていった
本人に文句を言え、ね
確かに理にかなってはいる
………どうするべきだろうな
冷たい冷気をはらんだ風が吹き抜けていく

珍しく穏やかな夜の一時の出来事
けれどまだ、結論は出ない
 
 

END
 
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