一転機


 
海岸線に夕日が沈んでいく
海面に反射する日の光も、色を変える空の様子も
擬似的に作り上げられた偽物の風景とは思えない出来だ
宇宙と密接に結びついた、特別な力
ここにあるのは、擬似的に作り上げられた本物
女王が持つ偉大な力
―――渡された言葉の数々が脳裏を過ぎる

「ハーイ、お久しぶり」
海へと続く小高い丘の上
たまたま足を運んだこの場所で見つけた人影
このまま姿を消してしまうことは簡単な事だった
だが、足は止まった
気が付かなければそれでいい
そんな後ろ向きの態度は、一呼吸後に振り返っオリヴィエの陽気な声にかき消された
「………ああ」
素っ気ないアリオスの態度を気にした様子もなく、オリヴィエはすぐ側まで足を運ぶ
何も話さずに近づく様子は、日頃うるさいオリヴィエからすれば、ひどく珍しい
「ま、言いたいコトはいろいろあるんだけどネェ………」
含みを持たせたオリヴィエの言葉
いろいろあるっていう言いたいことは、今まで捕まらなかったこと、だろ?
そして―――
「それで、アンタはどうするつもりなんだい?」
どうしても話さなければならないっていうのが、新しく身に付いたこの“力”の話
どうする?
その問いかけに対してどんな返事を返せば良いってんだ?
俺が持つにはふさわしくない力
在るはずのなかった筈の現象
黙ったままのアリオスにオリヴィエが小さく肩を竦める
「ま、突然こんなコトになって、混乱するのも仕方ないけどさ」
混乱?
そんな時期はとっくに抜け出した、今抱くのはまったく別の感情だ
この力は、確かに“サクリア”だ
それはごまかすことの出来ない事実
だが、この力を持つことの意味、それがわからねぇ
事実は事実だとクラヴィスの野郎は言ったが、その事実っていうのはいったいなんなんだ?
アンジェの未来の宇宙だというこの地に魔道の力が存在するコトも事実だ
だが、それと俺が力を持つコトはイコールじゃない
あんた達は俺に何を期待している?
アリオスの口元に皮肉気な笑みが浮かぶ
「また暗いコト考えてんじゃない?」
アリオスの視界、至近距離にオリヴィエの顔が出現する
思わずのけぞったアリオスへと一言文句を入れ
「まぁね、アンタの気持ちもわからなくはないヨ。突然サクリアだなんだって言われたってネェ」
微かに遠い目をして言葉を綴る
「でもさ、アンタは私達とは違うよね」

突然守護聖だなんて告げられ、全てを奪い去られたあの時の感覚
怒りや悲しみ、いろんな感情が交ざったアレは、私にとって一生忘れるコトは出来ない出来事
突然のサクリアの出現っていうのはそういう嫌な出来事と対になっているものだけど、アリオスの場合は違うはず。
“サクリア”を持つこと、それに付随する事実はアリオスが失わずに済むという保証みたいなモノ
ま、そんなコトはとうの昔に気づいてるんだろうけどさ
諸手を挙げて話に乗ってこない所がアリオスらしいって言えばらしいかもしれないんだけどネェ
「アンタが何を思っているのかなんて大体想像は付くけどね、それはそれでいいんじゃないの?」
何か反論しかけたアリオスの言葉を浚って、オリヴィエはさらに言葉を続ける
「なんてったって、宇宙がそれで良いっていってるんだからさ」
サクリアなんて代物は本人の意志でどうなるものでもない
どんなに迷惑だって言ったって、一方的に押しつけられるんだからネェ
「宇宙がアンタを選んだっていうのは、何が起きようと宇宙が責任をとるってコトさ」
『選んだヤツが悪い』
なんてのは誰の言葉だったかネェ
乱暴だけど、私は結構真理を突いてると思うんだよ
必要な相手だから本人の意志も何も無視して選ぶんだ、もしも何かあったとしても選ばれた方に責任はないはずさ
「責任、ね」
「まぁ、もしかしたら私達の宇宙にしたコトの責任をとらせるつもりかもしれないけど?」
アンタってば、優秀だから
明るく笑い飛ばした言葉に、微かに困ったような顔をした
「でもさ私としては、アンタ達ってば、放っておくと何をし出すか解らないから、纏めておいて互いを監視させようって考えだっていう所だと思うんだよネェ」
オリヴィエの言葉に虚を突かれたのか、今度は唖然とした様な顔をした

言いたいことを並べ立ててオリヴィエが消えた後
アリオスは見るともなしに海を見ていた
脳裏に浮かぶのは、数々の言葉
サクリアを持つということ
宇宙が選んだという話
「アンジェの宇宙に必要だって?」
ことさら言い聞かせるように言ったオリヴィエの言葉が、癪な事に頭にこびりついて離れない
不本意だがこういう状況は、記憶にある
それは微かな望み
―――そうであれば良いっていう想い
 
 

END
 
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