よく似た光景


 
雨音と火のはぜる音
暖炉の炎と、ろうそくの明かり
テーブルの上には酒とつまみ
そして時折、思い出したようにとぎれとぎれの会話

「学習能力が無いのと、好んでいるのとどっちだ?」
不意に雨に降られ、雨を避け訪れた場所
たたく前に開いた扉の内側で呆れた様な視線と言葉
「好きこのんでこんな状態に成っている訳でも無いが、学習能力と言う点でも否定したい所だな」
続けて同じ状況でこの場所を訪ねたと成れば、言いたくなるのも理解できなくは無いが、とりあえずは不可抗力だ
「すまないな、一番近い場所がここだったもので、思わずな」
おかしな事が起きていない、いつもの見回り
今日この付近を見ていたのはそれこそたまたまで、雨が降ってきたのもたまたまだ
………俺にとっは、だが
「家の中を水浸しにするつもりが無いのなら、さっさと入って来い」
回りくどい誘いの言葉を聞きながら、暖かな家の中へと足を踏み入れる
暖炉の中で揺れる炎が、冷たく冷えて居た身体を誘う
………借りるぞ?
視線で暖炉を示し
好きにしろ
視線で返事を貰い
炎の前を占領させて貰う
「ったく」
いかにもめんどくさそうな舌打ちと共に、数枚のタオルが投げつけられる
まぁ、確かにずぶぬれの状態で、俺の図体となれば1枚では足りそうもないかもしれないが
「済まないな」
お礼の言葉だけを発して、身体にまとわりついた水気を拭う
脱いだ上着を火にかざし、人心地着いたタイミングで、大振りのマグカップが渡される。
「度々だが、済まないな」
「まぁ、あんななら、ほっといたところで、風邪をひくこともなさそうだけどな」
一口飲んだコップの中身は暖められた酒
アリオスらしいと言うべきか、アルコール度数が高く、量も多い
飲めない訳ではないし、状況的にはありがたいから文句は言わないが………
「そういや、あのあとオスカーが来たぜ」
身体を温めるアルコールを大きく飲み込んだ絶妙のタイミングで聞こえた言葉に、俺は思わずむせかえる
「そ、それは………」
アリオスがわざとらしくため息をつく
「………済まない」
「まぁ、あんたが隠し通せるとは思っちゃいなかったけどな」
「………………」
それは確かに結果としてその通りだが………
テーブルの上へ、酒のつまみらしいチーズの塊が置かれる
そして手渡される一振りのナイフ
「………いただこう」
つまりこれは自分で取り分けろ、と言うことだろうか?
内心首をひねりながら、ヴィクトールはチーズの塊へと手を伸ばした

「つまりはお前という存在自身が宇宙に望まれているという事じゃないのか?」
長い長い沈黙の果て、半ば以上酔っぱらったヴィクトールが言葉を零した
「………なんのことだ?」
「幾ら俺でも、現状とお前の身に起きた事位は聞いている」
前後脈絡のない言葉は
「その話は止めろ」
「お前が考えている事も解らなくもないが、全てをひっくるめてお前という存在だと言うなら、今現在の“アリオス”という人間が宇宙にとって必要だと言うことだろう」
ろくに舌も回らない状況で、言いたい事だけは嫌に明確にいいやがる
「だが………」
「そのままのお前が必要だと、そう言われて居るんだ、心配する事も無いだろう………」
ただ否定するだけの言葉は遮られ、酔っぱらいの寝息だけが聞こえる
そう簡単に割り切れるような事じゃないだろう
弱くなった雨音と火のはぜる音が不思議に響いて聞こえた
 
 
 
 
 
 

END
 
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