決められない選択


 
『運命は決まってなどいません』
寄りかかった木の中から声が聞こえる
『もし、運命が決まっているのだとしたら、宇宙の意志が思う通りに世界が進むというのならば、私はここにこんな形で存在する事は無かったでしょう』
水がしみだす様に人影が現れる
『私に出来る事は、“願うこと”そして“伝えること”、決して私が思うように世界が描かれることはありません』
“エルダ”と名付けられた青年が姿を現す
『宇宙を、世界を動かし造り上げるのは、あなた方ですから』
「なら、お前は何を願った?」
アリオスの問いかけにエルダは目を伏せる
何かを考えるように、思い出そうとするように、首が傾げられる
『………解りません』
長い沈黙の末、エルダは漸く言葉を絞り出す
『私はひどく曖昧で、過去の事は―――過去の事ほど思い出す事が困難です』
エルダの視線が、街の向こう側へと向けられる
―――彼奴等が居る場所
『ただ、私は助けを求め、願いました』
エルダの視線がゆっくりとアリオスの元へと戻される
『誰とも知らない方へ』
「………それで、たどり着いた先がここだって?」
躊躇いもなく、頷かれる
運命だのといった類のモノは信じない、信じたくない
こいつもそんなものは存在しないとそう言っている
だが………
『きっと、想いの強さが運命を決めるのでしょう』
物思いに沈みかけたアリオスの脳裏に声が響く
『私がこの地に居るのも、“どうにかしなければ”という私と、皆の想いがもたらした結果』
穏やかな視線がまっすぐにアリオスへと向けられる
『あなたも、そう』
アリオスが触れた木の幹から暖かな感覚が伝わってくる
『あなたが望み、皆が望んだ、全てはきっとその結果です』
―――覚えてはいませんが
穏やかな笑みを浮かべ、現れた時と同じようにエルダの姿が消えていく
『もう一度、貴方が抱いた望みを確かめてみるのも良いかもしれませんよ』
アリオスは深く息を吸い込み
「………よけいなお世話だ」
聞こえなくなった声へと返事を吐き出す

願わなかったと言えば嘘だ
望まなかったかと問われれば、望んだと答える
“あの時”が心地よかったのは事実だった
だが、それでもソレとコレは別だろう?
鈍色に変わる空をアリオスは睨み付けるように見上げていた
 
 
 

END
 
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