嵐の前


 
静寂が続いている
強大な力を誇っていた筈の“敵”は何の手出しをする事も無く息を潜めている
まるで、退散したかの様に
滅ぼす事を諦めたかの様に
何もかもが解決したかの様な錯覚は
幾日もの間静まり返ったままの大地と
勢力を縮小していく“霧”のせい
あちこちに満ちていた不気味な気配もほとんど感じなくなった
代わりに、空気に融け込んだ柔らかな気配
―――言うヤツが言えば聖なる気配ってやつだろうが、そこまで大層なものじゃない
元々この地に住む人々は、おかしな事も危険も全て片づいたと思っているのか
既に緊張感の欠片も無い
道行く挨拶代わりに過去形で話をするだけだ
確かに勢力図は一変した
とりあえずの危険は去ったと言えるかもしれない
だが………
“敵”である存在
あの不気味な存在がそう簡単に諦めるとは思えない
このまま、消滅を待つような甘い事はしないだろう
そろそろ、覚悟を固める時期だな
ただ一つ、時間をおく毎におかしな気配に変わっていく場所を鋭い目で見つめた

「あの場所が問題だ」
この世界に招かれた時に降り立った場所
何者かの気配のする場所
敵とも味方とも判別しがたい者の居る場所
各地を覆っていた霧の大部分が晴れ
この小さな世界は、サクリアで満ちている
異変の象徴とも言える霊震だって最近は起きなくなっている
全ては解決済みの様にも思える
だが、帰還する事は叶わない
『きっとまだこの地でやらなければならない事が残っているんだわ』
それが2人の女王の見解
やり残していること
やらなければならないだろう事
それは聞くまでもなく
相談する迄もない
この地に降り立った時から指し示されていた地
あの場所に何かがある事は分かり切っていた
「調査をするべきであろうな」
あの場所には何か重要な秘密がある
だが、同時に悪い予感がする
「くれぐれも慎重に事に当たるように」
それと、子供達が近づかぬよう厳重な注意が必要だろう
それと………
「協力を仰がねばなるまい」
小さな呟きに、幾人もが頷いた

夜人々が寝静まる頃
森の中の一軒家に幾人もの人が押しかけた
一方的で長い話会いの末
「大して協力はできねえぞ」
諦めたように零された一言
“結末”に向かって時間が動き出した
 
 

END
 
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送