引っ越し


 
安定
さほど時を待たず、消滅するはずの小さな空間が安定した
残されたその場所は小さな宇宙となり
押しつぶされそうになりながら存在していたその地は
新しい世界の中心となった

「ってコトで、急ぐ必要は無くなったんだケド、やっぱり早くワタシ達の宇宙に帰る必要があるワケ」
この地に現れた際には、身一つで放り出されたも同然
だが、短くは無い時間ここで生活をしていればそれなりに荷物は増える
………らしい
おかげで俺以外の奴等は、自分達の住む世界へと帰る為の準備で大忙しだ
「お前達は仕方ないにしても、アイツらもなんでここまで荷物が増えるんだ?」
納得はしたくないが、アンジェリーク達の荷物が増えるのは、まぁ、仕方がない
―――女の荷物ってのは多いって決まってるもの、らしいからな
だが、野郎共まで荷物が増えているのはどういう了見だ?
俺の言葉に、アンジェ達は顔を見合わせて肩を竦める。
「エルンストの荷物はここでの研究資料ばっかりだヨ」
重要なデータは持っていかないとならないデショ
尤もらしく告げるレイチェルの荷物にも、一部研究資料が紛れ込んでいたはずだ
「ルヴァの荷物もこの地の文献が主だったと思いますわ」
「ゼフェルは、ここで造られた機械とか、細工品だったわよ」
「メルさんも、珍しい石とか持ち帰るって言ってたかな」
レイチェルに続くようにして告げられた言葉
一部、今持ち帰る必要は無い気もするが、そいつらは仕方ないとしても他の奴等はどうなってるんだ?
わざとらしいため息に、アンジェ達が顔を見合わせる
「………確かになんでそんなに荷物が多いのって気はするんだけどね」
「オリヴィエの荷物は特にそう思いますわ」
向こうの女王達が深くため息を吐く
「何かの危機ってワケじゃないから急ぐ必要は確かにないんだけどネ」
レイチェルが意味ありげな視線を向ける
「いっそのこと置いていくか?」
俺の言葉に、2名頷きかけた

強引に決めた引っ越しの期日は2日後
まだ全然終わっていないと悲鳴を上げたのが数名
引っ越し―――単なる移動のはずだが、ここまで来れば立派に引っ越しだ―――の支度が終わっているのは俺の他に3名
守護聖達は見事に全滅だ
「まぁ、生活するっちゅうんは、どうしても荷物が出てきますしなぁ」
呆れる俺にそう言ったのはチャーリーだが、チャーリー自身の準備は済んでいる
荷物は手荷物が一つ
「処分すればいいんだろ」
ここで仕入れた商品やら、使っていた品物は全部何処かの店だか人だかに譲ったらしい
俺の言葉に、チャーリーは曖昧な笑みを見せる
「短くは無い日々だ、愛着もまたわくんだろう」
「ってことは、君の場合愛着は全く無いってことになるね」
「いや、そういった訳では無いが………」
俺と同じように必要最低限の品物で暮らしていたらしいヴィクトールとセイランも支度は終わっている
ってより、運ぶ荷物も処分する荷物も無いってだけだ
「どっちにしろ無駄な荷物が多いってことは事実だね」
どういった拘りがあるのか知らないが、奴等の屋敷の中から様々な荷物が運び出されている
「………あんま言いたく無かったんやけど」
テラスから庭を見下ろしていたチャーリーが怖々と口を開く
なんだ?
俺達の視線に促され、チャーリーが躊躇いながら言葉を続ける
「あの荷物、誰が運ぶんやろ」
一カ所に集められていく荷物
荷物を運んでいるのは、この地で彼等の身の回りの世話を買って出てくれた人達
「………身一つで来たんだよな?」
彼等を一緒に連れて行く訳には行かない
「自分達で責任を取って貰うしかないだろうね」
セイランの言葉にヴィクトールが黙り込んだ

「ニャー」
足下で聞こえた声に手を伸ばす
小さな温もりを肩の上にのせる
「先に行くぞ」
次元回廊へと足を踏み入れた瞬間、背後から慌てたような声が聞こえた
 
 
 
 

END
 
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